"19年目の妊娠と妻を階段から突き落とした姑" 第13話
総受付を通ることもなく、昨訪れた病棟へと階段を駆けがる。
すれ違う護師たちの制止の声など、には届かなかった。
「ミキ! ふざけるな! さっさとてこい!」
志は鳴り声をげながら、病のドアを乱暴にけ放った。
しかし、志はそので完全に言葉を失い、ち尽くした。
病のには、誰もいなかった。
ベッドのシーツは綺麗にえられ、私物のつすら残されていなかった。
まるで最初から、誰も入院などしていなかったかのように。
気なほどのたい静寂だけが、部を満たしていた。
「どういうことだ……?」
志の呆然とした声が、虚しくい壁に反響した。
背から、コツコツと静な音がづいてきた。
護師のが、ややかな線を向けながらっていた。
「さん、院内で声をすのはおやめください」
志は血った目を剥きしにして、に詰め寄った。
「妻はどこだ! 勝に退院したのか!? 今すぐ連絡先を教えろ!」
は歩も引くことなく、静かに首を横に振った。
「奥様は退院されたわけではありません。ご自の全を確保するため、別の厳な病棟へ移されました」
志は唾をばして叫んだ。
「全だと!? 誰から守るって言うんだよ!」
は底れむような目を志に向け、たく言い放った。
「あなたと、あなたのお母様からです」
その言が、鋭利な刃物のように志の胸郭をく突き刺した。
「奥様は、あなた方との切の面会を確に拒絶しておられます。すでに代理弁護士を通じて、接触禁止の通告もされています」
志はそのに崩れ落ちそうになる覚に襲われた。
自分が全てを支配し、妻は自分ののままに従うだとい込んでいた。
だが、現実は全く違っていた。
ミキは自分の確固たる志で、夫というを自分の世界から完全に消したのだ。
志は空っぽのベッドを、ただ呆然と見つめ続けることしかできなかった。
『げさにするな』と切り捨てた妻の傷。
と級ワインをんで笑いっていた空の。
その全てが、度と取り返しのつかない致命な過ちだった。
だが、最の絶望はまだ終わってはいなかった。
志の背から、く落ち着いた男性の声が響いた。
「さん、しよろしいですか」
振り返ると、を着た主治医の佐伯がっていた。
そしてその隣には、仕ての良いスーツを着た鋭い差しの女性が並んでいた。
女性は胸元から弁護士バッジを覗かせ、たく会釈した。
「私は、奥様の代理を務めております藤堂と申します」
先ほどに話をかけてきた、あの氷のような声の主だった。
志は歩ずさりし、引きつった顔で呻いた。
「べ、弁護士が……なぜここに……」
藤堂は抱えていた革のファイルをき、枚の写真を取りした。
「ご主、あなたは奥様の怪を、単なる転倒だと言い張っておられましたね」
藤堂は写真を志の目のに突きつけた。
「これを見ても、同じことが言えますか?」
写真を見た瞬、志の呼吸が完全に止まった。
それは、実の廊の見守りカメラが捉えた、決定な瞬だった。
かよの両が、ミキの背を全力で突きばしている瞬が鮮に写っていた。
「母さんが……突き落とした……」
志の膝が激しく震え始めた。
藤堂は徹な声で告げた。
「これはな傷害事件です。すでに警察へ証拠を提し、被害届の受理がめられています。お母様には、もなく警察から事聴取が入るでしょう」
「け、警察……!?」
志はを抱え、取り乱して叫んだ。
「待ってくれ! ただの族の揉め事じゃないか! 警察汰になれば、俺のでのが完全に終わってしまうんだ!」
その言葉を聞いた瞬、隣にっていた佐伯医師の目が激しいりでった。
「あなたは……まだ自分の保のことしか考えていないのですね」
医師としての静かな、しかし激しい憤りが声に滲んでいた。
「奥様がどれほどの激痛と恐怖ので耐えていたか! 実の母親が妻の命を奪いかけたというのに、あなたは何つ顧みず、病院にすら来なかった!」
痛いところを突かれ、志は言葉に詰まった。
しかし、ちっぽけなプライドだけが捨てきれず、志は喚き散らした。