"十年介護と九千万円" 第9話
男が私に隠れて携帯話を持っているのは確実だった。
私は部を見回した。 畳半の。 掃きし窓の向こうには、幅センチほどの狭いベランダがある。 隣との境にはいコンクリートの隔て板があるだけで、普段は洗濯物を干す以に使わない所だ。
ふと、ベランダの隅に目が留まった。
放置され、赤茶に錆びついた古い換気扇の排気フード。 の入居からかなくなり、側からアルミテープで目張りされていたはずの所だ。
私はベランダへて、サンダルを履き、排気にづいた。 よく見ると、アルミテープの端がわずかに剥がれ、貼り直されたような皺が寄っていた。 指先を掛け、テープを慎にめくる。
暗い排気の奥。 黒いビニール紐が本、奥のダクトの隙から垂れがっていた。
臓が鐘を打つ。
紐を繰り寄せると、ずしりとしたみが伝わってきた。 引きずりされたのは、油煙と埃まみれになった、細い鉄製の苔の缶だった。 蓋はビニールテープで厳に密閉されている。
私は部に戻り、台所のハサミでテープを切り裂いた。
缶の蓋をけた瞬、ツンとした械油の匂いがを突いた。
に入っていたのは、つのものだった。
つ目は、黒い旧型の折りたたみ式携帯話(ガラケー)。
画面をくと、充器が型のモバイルバッテリーと共に繋がれていた。 源ボタンを押しすると、液晶が青くった。
発着信履歴は、わずかつの番号だけで埋め尽くされていた。 つは『O』——迫だろう。 そしてもうつは、『麻美』。
未読メールが件、フォルダに残っていた。 の夜、あの料亭で会っていた帯のメールだった。
送信者:麻美 件名:無題 『王レディースクリニックの分娩予約、来週曜までに振り込まないと部押さえられないって。あとタワマンの付、迫のじいさんにく売らせてよ。健ちゃん、約束破ったら承しないからね』
胃の底がたくなった。 レディースクリニック。分娩予約。 あの若い女は、この男の子供を籠もっているのだ。 そして、その産費用としい居の付を、私の茨の実を売り払ったで賄おうとしている。
どこまでを舐め腐っているのか。 どこまで私のを踏み躙れば気が済むのか。
だが、りに震える私の線を、缶の底に残されていたつ目の物体が奪いった。
それは、のチャック付きポリ袋に密閉された、束の類だった。 広げると、茨県の信用庫の名が入った【産担保融資事審査申込】の控えがてきた。
借入申込の欄には、『健』の名。
だが、連帯保証の欄を見て、私は息を呑んだ。 そこには、私の名——『枝』の署名と、見たこともない印が捺されていた。
私名義の実印が、すでに勝に偽造され、登録されていたのだ。 迫が私に「実印をせ」と迫っていたのは、融資の実との最終決済に、本の印鑑証がどうしても必だったからにならない。 申込の余には、黒いボールペンで、殴りきのメモが添えられていた。
『信・本貸庫 曜 決済完、即解約』
曜の午。 それが、奴らの設定したタイムリミットだった。 今が曜。残されたはもない。
そして——。 缶の最部、底敷きの段ボールのから現れたつ目のものを見た瞬。
私の呼吸は、完全に止した。
それは、透なサランラップで幾にも、ミイラのようにく巻き付けられた、みのある平たい塊だった。 ラップの隙から、赤黒い染みが浮きている。 乾いた血液の臭い。
私は震えるで、ハサミの刃を入れてラップを切り裂いていった。 枚、また枚とビニールを剥がすたび、たい属の触が指に触れる。
現れたのは、分解された回転式拳銃の銃とシリンダー——警察官が携する、ニューナンブM60の部品だった。 属の表面には、無数の擦り傷と、削り取られた痕跡があった。
警察の個体識別番号が、ヤスリで徹底に削り消されている。
そして、その銃の部品のに、さく折り畳まれていたもの。
以の、黄ばみ、ボロボロに擦り切れた方聞の面記事の切り抜きだった。