"無償の介護係だった嫁" 第15話
【15】「真奈美の12を、タダだとってた俺の責任だ」
曜の期限まで、残りを切った曜の夜。
リビングの空気は、張り詰めた氷のようにえ切っていた。
テーブルの央には、ケアマネジャーの岸さんが置いていった青いバインダー。
そのに広げられた『通所介護・訪問介護利用契約同』のい用が、蛍灯ので々しくっている。
健司はスーツのネクタイをしたまま、子に座ってを抱えていた。
向かいには、夫にをげて実へ駆けつけた由が、真っ青な顔で座っている。
「……万千円」
健司が掠れた声で呟いた。
「毎、万だぞ。俺たちの料から、どうやって捻すりゃいいんだよ……」
「私だって……」
由が唇を噛み締め、刻みに震えた。
「夫に相談したら、『おのパート代から全額すなら文句は言わない』って言われたわ。私の取り、に万よ? 残りの万、どこからせばいいの……?」
の線が、キッチンで麦茶を注いでいた私の背に、く突き刺さる。
言葉にはさない。
けれど、その沈黙は雄弁に叫んでいた。
『おが元の通りに戻れば、このは払わずに済むんだ』と。
、私のの奥に染み付いてきた無言の圧力。
胃の奥がキュッと縮みがり、臓が痛いほど脈打つ。
そのだった。
ギイ、との引き戸が鈍い音をてていた。
パジャマ姿の義母が、壁にを突き、震えるでよろめきながらリビングへ入ってきた。
その頬は涙で濡れ、髪が乱れていた。
「お母さん、起きちゃダメじゃない!」
由が慌ててちがったが、義母は々しく首を振った。
「健司……由……」
義母はテーブルの端にすがりつくようにして、掠れた声をした。
「サインなんて、しなくていいよ……。に万なんて、払えるわけないじゃないか。私のために、あんたたちの活を壊すことなんかないんだよ」
義母はテーブルのの契約を、シワだらけので押し戻そうとした。
「私、するから。デイサービスなんてかなくていい。お呂だって、に回でいいよ。ご飯だって、お粥杯で分だから……。だから、そんな、払わないでおくれ……」
老のれな自己犠牲。
それは、庭ので最も残酷な刃となって、周囲の罪悪を抉る。
「お母さん……」
由の目から涙が溢れた。
健司もまた、奥歯を噛み締めて顔を歪める。
義母の線が、最に私へと向けられた。
すがるような、許しを請うような、痛な瞳。
「真奈美さん、お願いだから……」
私の喉元まで、過の言葉がせりがってきた。
(私がやりますから)
(丈夫です、お義母さん)
その言をにしさえすれば、今夜のこの獄は終わる。
義母は泣き止み、健司は堵し、由は救われる。
私の臓が激しく警鐘を鳴らし、爪がのひらにくい込んだ。
耐えろ。ここでをいたら、私は、このたちの代わりだ。
私が息を呑んだ、その瞬だった。
「母さん、やめろ」
く、押し殺した声が響いた。
健司だった。
健司はゆっくりと顔をげ、義母のシワだらけのを、両でしっかりと包み込んだ。
「飯を抜くだの、呂に入らないだの、そんな惨めなこと言わないでくれ。……実の親にそんな活させて、俺たちがまともにきていけるわけないだろ」
「健司……」
健司は胸ポケットから万を取りした。
キャップをし、契約の『契約者・元引受』の欄へペン先を落とした。
が刻みに震えていた。
万円という現実のみに、額からや汗が滲みている。
それでも、健司のペン先はかられなかった。
「由。おのパート代から、毎万せ」
健司は類を見つめたまま言った。
「え……?」
「残りの万ちょっとは、俺がボーナスと遣いを削って払う。付きいのみ会も全部断る。も放して、軽にする」
「兄ちゃん、本気なの……?」
「本気配だよ」
健司は文字ずつ、自分の名を力くき込んでいった。
『佐藤 健司』
万を置き、健司は真っ赤に充血した目を義母に向けた。
「母さん。これは、族のが無駄遣いされるんじゃないんだ。今まで、真奈美ののを、タダだとい込んで搾取してきた……俺たちの責任なんだよ」
リビングに、静まり返るような沈黙が落ちた。
義母が目を見張り、ポロポロと粒の涙を零した。
健司はちがり、朱肉のついた実印を、自分の名の横に力く押し込んだ。
ジュウ、とが朱に染まる。
それを見届けた私は、エプロンのポケットからスマートフォンを取りした。
画面には、受講料確定の案内。
私は迷うことなく、画面の『受講確定・教材送付を承諾する』というボタンをタップした。