"他人の家で父親ごっこをする夫" 第13話
【13】 どちらの「必」を選ぶのか
曜の夜。
決戦の夜は、息が詰まるほどの沈黙ので更けていった。
雅は昨夜からほとんどを利かず、斎に閉じこもっていた。
リビングと寝を隔てる廊からは、絶えなくスマートフォンのバイブレーションが響いていた。
ブーッ、ブーッ、とを震わせるい振音。
千鶴さんからだろう。
『雅さん、の朝は半に来てくださるのよね?』
『トラックの続き、どうすればいいか分からなくてです』
『遥が、雅おじちゃんと緒に野にきたいって泣いていて……』
見なくても、送られてきているメッセージの文面がにとるように分かった。
あの族は、今この瞬も、雅に全力で縋り付いているのだ。
雅というを喉からがるほど欲しがり、「あなたがいなければきていけない」と叫び続けているのだ。
方、私のスマートフォンは、静まり返っていた。
母からは夕方に度だけ、いメッセージが届いただけだった。
『由美、は無理しないでね。でも護師さんがついててくれるから丈夫よ』
母もまた、私と同じだった。
に迷惑をかけることを極端に恐れ、痛みをで抱え込もうとする。
そんな母の姿が、今の私には酷く切なく、そして痛々しかった。
私たちは、に「助けて」と泣きつく技術をらない。
きな声で「あなたがいないとダメなの」と甘えることができない。
だからこそ、雅のような男は、声のきい方へ、より分かりやすく依してくれる方へと流れていくのだ。
私はベッドに入り、毛布を引きげた。
隣のベッドは空いたままだ。雅は今夜も斎からてこない。
もし、彼が野へ向かうトラックのハンドルを握るなら。
私はそので、弁護士の事務所へ向かうだろう。
浮気や暴力のような分かりやすい法為ではないかもしれない。
けれど、の最も過酷な瞬に、妻のを握ることを放棄し、の「頼れる男ごっこ」を優先するようなと、これ以同じ根ので息を吸うことはできない。
寝のドアの隙から、微かにが漏れていた。
斎のを、ったり来たりする雅のい音が聞こえる。
彼はいま、秤にかけているのだ。
自分を絶対なヒーローとして称えてくれる、野への旅ち。
それとも、背を向け続けてきた、苦しい現実と病の待つ病院の待。
どちらの「必」を選ぶのか。
それは彼自が、これから先のを「誰としてきるのか」を決める、最の選択だった。
計の針が、午を指した。
は、たいがり始めていた。
京のの、骨の髄までえ込むようなの音。
ギシ、と廊のが軋む音がした。
続いて、洗面所で顔を洗う音。
クローゼットからを取りし、着替える気配。
午分。
私はベッドからず、暗のでを澄ませていた。
玄関で、靴を履く微かな摩擦音が響く。
靴箱ののキートレイには、つの鍵が置かれていたはずだ。
昨雅が借りてきた、引越し用2トントラックの鍵。
そして、私たちが普段使っている、自用の鍵。
属が触れう、チャリンというい音が度だけ鳴った。
ガチャリ。
い玄関ドアがき、たいの匂いが瞬だけ内に流れ込んできた。
そして――バタンと、静かにドアが閉まった。
鍵がかかる音。
ざかっていく、つの音。
私はゆっくりと起きがり、え切ったフローリングに裸をろした。
計の針は、午半を回っていた。