"妻の失踪から90日、誰かが場所代を払っている" 第15話
「そして信には、おの正をすべて証言する。……俺は、円も払わない」
直の顔から、すべての血の気が引いていった。 その瞳に、初めて本物の恐怖が宿るのを、私は酷な目で見つめていた。
「……兄貴、マジで言ってんの?」
直の元から、ら笑いが完全に消え失せていた。 喉仏がし、にぶらげた字レンチの先端が、微かに刻みに震えている。
「本気だ」
私の声には、自分でも驚くほど切の揺らぎがなかった。 胸の奥を塞いでいたのようなものが、気に流れ落ちていくようなたい静寂があった。
「嘘だろ……?! 実の弟を売るのかよ! たかが百万ぽっちので、俺を刑務所に送る気か?!」
直が声を張りげた瞬、母が狂乱して私の胸ぐらにびかかってきた。 爪が首筋に突き刺さり、コートの襟が引きちぎれそうなほど引っ張られる。
「俊介! あんた正気かい?! 鬼だよ、あんたは悪魔だ! 里奈さんに毒されて、実の族を捨てる気かい! 直が刑務所に入ったら、このはおしまいだよ! 所にどんな顔して歩けばいいのさ!」
母の唾が顔にかかる。 世体。 恥。 族。 母のから溢れる言葉のすべてが、かつて私を縛りげていた鎖そのものだった。 だが、その鎖はもう、私の肌を締めつける力を持っていなかった。
「母さん、静かにしてくれ」
私は母の両首を掴み、ゆっくりと、しかし確実に引き剥がした。
「直はおしまいになんかならない。自分がやったことの責任を、法律に従って自分で取るだけだ。……そして俺も、自分がやった責任を取る」
「兄貴!」
直が歩踏みし、レンチを振りげるように拳を固めた。 目が血り、追い詰められた獣のような濁ったを宿している。
「悔すんなよ! 俺が捕まったら、兄貴の会社にも全部バラしてやるからな! 『証プライム企業の営業課が、弟の借を押し付けて庭を崩壊させた』って、ネットにも職にも全部ぶちまけてやる!」
「好きにしろ」
私は鍵を取りし、オートロックの内側へを踏み入れた。
「だが、度と俺のに現れるな。次に敷に入ったら、そので百番通報する」
いガラス扉が、背で静かに閉まった。 自施錠のたい属音が響く。 ガラスの向こうで、母が泣き崩れてに座り込み、直がガラスを殴りつける姿が見えた。 だが、その音はガラスに遮られ、私のには届かなかった。
私は度も振り返らず、エレベーターに乗り込んだ。
*
翌朝、私は休暇を取り、と同に都内の法律事務所のドアを叩いた。 浦恵美に紹介されたわけではない。自分で法テラスを調べ、債務理と刑事告訴にい弁護士を自力で探した。
会議で向かいった老弁護士に、私はすべての類を差しした。
信の催告。 直が偽造した類の控え。 そして、半、私自がろくに読まずに実印を押してしまった連帯保証契約。
「……なるほど」
弁護士は鏡を押しげ、類を丹にめくった。
「厳しいことを申しげますが、半のこの契約については、ご自の過失が極めてい。内容を読まずに実印を預け、印鑑証を渡した以、信に対する連帯保証債務を完全にゼロにするのは困難です」
「分かっています」
喉の奥が乾いていたが、声は震えなかった。
「私が甘かったんです。『族だから』と言い訳をして、確認を怠った私の責任です。この分の返済については、私の貯蓄と今の与から、分割で信に支払う用があります」
弁護士は線をげ、私の目をじっと見つめた。
「ですが、それ以に直氏があなたの名義を勝に冒用して更した契約、ならびに別の消費者融からの借入については、完全に犯罪です。こちらは印私文偽造、同使、および詐欺罪で告訴状を作成しましょう。警察も、本が自首同然に被害を申告し、自らの過失も認めているのであれば、捜査にかざるを得ません」
「お願いします」
私は々とをげた。
そので、区を管轄する川警察署へ向かった。 活全課ではなく、刑事課の取調。 パイプ子に座り、にわたって捜査員に経緯を説した。
弟のこれまでの素、偽造された跡、そして――妻が怯え、失踪するに至った経緯のすべてを。