"娘を救った担任に、娘が叫んだ「信じるな」" 第15話
結が、箸を止めた。 元のコップを見つめたまま、い沈黙のあとにをいた。
「ねえ、お母さん」
「ん?」
「もし……もし私が、あのいなくならなかったら」
娘の細い声が、静まり返った部に落ちる。
「先のこと……誰も調べなかったのかな」
私は箸を置き、娘の顔をじっと見つめた。 結の瞳は、半のような怯えも、失踪直のような狂気も宿していなかった。 ただ、自分が引き起こした嵐のきさを、真っ直ぐに測りかねているような目だった。
「……そうね」
私はく息を吸い、静かに答えた。
「こんなにくは、誰も気づかなかったかもしれない」
結の肩が、わずかに揺れた。
「じゃあ……」
娘は唾をみ込み、恐る恐る、胸の奥に押し込めていた問いを吐きした。
「私がしたことって……正しかったの?」
その言葉の裏にある、すがりつくようないが痛いほど伝わってきた。 自分が失踪し、騒ぎを起こしたからこそ、の嘘が暴かれた。 自分のには、があったのだといたい。 誰かを獄に突き落とした自分のに、ほんのしでも「正しさ」の破片を見つけたい。
母親として、抱きしめて「そうよ」と言ってやりたかった。 「あなたは違っていなかった」と嘘をついて、娘の痛みを消してやりたかった。
だが、私はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ」
結の瞳が、かすかに見かれる。
「正しくなんて、なかったわ」
私は娘のたい指先に、自分のをねた。
「あなたが逃げしたことで、先の嘘は表にた。それは事実よ。でもね、結。あなたが突然いなくなった、お母さんは自分の命が削れるほど怖かった」
ねたのひらに、しだけ力を込める。
「そして何より……あなたが過を清算したいという自己満のために、さんのに押し掛けたこと。お母さんが暴してネットにを晒したこと。……私たちは、もう度あの子を殺しかけたのよ」
結の目から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、テーブルの目を濡らしていった。
「結果として真実が暴かれたとしても、そのためにの命を危険に晒していい理由にはならない。……自分の体を質にして、誰かを追い詰めるやり方は、絶対に正しくないの」
結は唇を噛み締め、嗚咽を漏らさないように必で耐えていた。
「じゃあ……どうすればよかったの……? あの、私はどうすれば……」
「違えたなら、そので声をげるの」
私は娘の目を真っ直ぐに見据えた。
「怖くても、お母さんにられるとっても、そので『嘘をつきました』って言うのよ。自分のでって、自分の言葉で引き受けるの」
結の細い指が、私のをぎゅっと握り返してきた。
「私たちは、回りをしすぎたわ。お母さんも、あなたも。
……でもね、結」
朝のが、カーテンの隙から差し込み始めていた。 の空が、いのを押し除けるように、く透き通っていく。
「次に同じことが起きたら。……次は、自分を傷つけなくても、誰かを連れにしなくても、ちゃんと声をせるようになろう。で、その練習をしていこう」
結は、子供のように顔をくしゃくしゃにして泣き崩れた。 私の胸に顔を埋め、声をげて、部に響くほど激しく泣いた。
誰かのせいにするための涙ではなかった。 自分のさと、自分が奪ってしまったものたちのさを、全で受け止めるための涙だった。
私は娘の震える背を、何度も、何度もさすり続けた。
救われない過はある。 、許されない罪もある。 それでも、私たちはこの傷だらけの現実から逃げさずに、きていかなければならない。
窓ので、朝のたいがカーテンを静かに揺らしていた。 差し込むはまだ細く、頼りなかったけれど。 それは紛れもなく、私たちが度と嘘をつかずにきていくための、しい朝のだった。