"ローンを完済した私に、義母は「家なら売った」と言った" 第1話
テーブルのに、万円の振込受領証を置いた。
ペラペラのの端が、湿気でわずかに丸まっている。 のATMから印字されててきたばかりの、まだ温もりの残る切れ。 そこには、、毎欠かさず刻み続けてきた送記録の、最のが刻まれていた。
「……終わった」
声にすと、喉の奥がきゅうと締まった。 歳で結婚して、この埼玉の建売宅を買って。 毎、私の取り万円のパート代から、きっちり半分。 万円を夫の座に振り込み続けてきた。
キッチンの隅で、使っている蔵庫がく唸りをげている。 ブーン、カラカラ、と障りなモーター音。 パッキンは黄ばんで裂け、になると凍の奥に分いが張り付く。 何度も買い替えたいと夫に言った。けれどそのたびに、あのは眉をひそめて同じ言葉を繰り返した。
「まだくだろう。ローンの支払いが終わるまでは余計な費をするな」
そのローンが、今、終わったのだ。 数にも、夫からスマートフォンにメッセージが入っていた。
『今で最だからな。万、忘れずに振り込んでおけよ』
あの几帳面な夫らしい、事務でい文面。 私はその画面を何度も見返し、今というを指折り数えて待っていた。 エプロンのポケットから、量販で何週もから眺めていたチラシを取りす。
指先で、い型蔵庫の写真をそっとなぞった。 野菜が広くて、自製氷がついていて、何より静かにえる最型。 これからはもう、あの障りなモーター音に怯えることもない。 自分のおで、自分の暮らしをしだけ息のしやすいものに変えられる。
そう信じて疑わなかった。
「何ニヤニヤしてるのよ。気が悪い」
背から、え切った声がんできた。 振り返ると、リビングのソファにく腰掛けた義母が、老鏡の奥から私をねめつけていた。 元には湯呑み。歳になってもも目も達者で、息子の稼ぎで暮らしているという自負だけがを着て歩いているようなだ。
「お義母さん、これ見てください。やっとローンが終わったので、この蔵庫に買い替えようとうんです」
私は努めて穏やかに、チラシを義母ののガラステーブルに置いた。 、このの嫌と言に耐え続けてこられたのは、このがあったからだ。 どんなに理尽な言葉をぶつけられても、「ここは私と夫が半分ずつおをして守ってきただ」とえたから、をげ続けることができた。
けれど義母は、テーブルののチラシに瞥もくれなかった。 乾いた唇の端をわずかに吊りげ、でさく笑っただけだ。
「しい蔵庫? フン、無駄なことね」
「え……?」
「そんなもの買う必ないわよ。この、とっくに売れてるんだから」
のから、氷をぶちまけられたような気がした。
「……は?」
喉の奥から、乾いた掠れ声が漏れた。 が、まったくに入ってこない。 売れてる? 誰が? 何を?
「お義母さん、何を仰ってるんですか。このは、今最のローンを私が振り込んで……」
「だから、あんたは相変わらず話が通じないって言うのよ」
義母は面倒くさそうに湯呑みをテーブルに置いた。 カツン、と底のい音が静まり返ったリビングに響く。
「よ。彦が全部続きしたの。ここはもう、あの子のでもあんたのでもないのよ。あと数ヶしたら、ここをていくんだから。しい具なんて買ったって、粗ゴミになるだけじゃないの」
元が、ぐらりと揺れた。 が抜けて、暗い底へまっ逆さまに落ちていくような烈な浮遊。 胃の底がきりきりと痛み、の先から急速に体温が奪われていく。
「嘘……ですよね? だって、彦さんは何も……」
「どうして息子の持ち物を処分するのに、あんたなんかに々許を取らなきゃいけないのよ。名義は全部彦なんだから、あの子がどうしようとあの子の勝でしょうが」
義母は忌々しそうに吐き捨てると、テレビのリモコンをに取ってチャンネルを変えた。 画面から流れる昼の報番組の陽気な音楽が、ひどくくの来事のように聞こえる。
私の指先は、刻みに震えていた。