"昨日の私を着る女" 第1話
曜の朝、タイムカードをカードリーダーにかざした瞬だった。
背で自ドアがき、聞き慣れない軽やかな音がフロアに滑り込んできた。
「おはようございます、佐伯さん」
振り返ると、先総務に途入社してきた鈴真由さんがっていた。
いつも通りの柔らかい笑みだった。
だが、私の線は彼女の胸元で完全に凍りついた。
いミルクティーの、ざっくりと編まれたローゲージのカーディガン。
ドロップショルダーの落ちと、の裾だけがわずかにアシンメトリーにくなっている特注のような変形カット。
昨、私が着ていたものとまったく同じだった。
も、編み目の粗さも、ボタンの目調の配置に至るまで。
「……おはようございます、鈴さん」
喉の奥から絞りした私の声は、ひどく平板だった。
「そのカーディガン、いですね」
横を通りかかった営業事務のさんが、湯のマグカップを片に笑いかけた。
「あ、ありがとうございます。ちょっと肌寒かったので、クローゼットから引っ張りしてきちゃいました」
鈴さんは首をし傾げ、照れたように袖を引っ張った。
指先だけをしすその仕すら、昨私が社内メールを打つときに無識にやっていた癖そのものだった。
「なんかさ、昨佐伯さんも似たようなの着てなかった? ふたり、の好みが似てるよね」
さんがのない調子で言った。
「本当ですか? 栄です。佐伯さん、いつもすごく落ち着いた素敵な着こなしをされているので」
鈴さんは私に向き直り、嬉しそうにさく会釈した。
私はデスクので、社員証のネックストラップを親指の腹でく押し潰した。
ただの偶然だ、と自分に言い聞かせた。
ファストファッションやセレクトショップのなら、被ることなど珍しくもない。
だが、そのカーディガンは私が、吉祥寺のさな個セレクトショップで見つけたノーブランドのものだった。
量産されているはずがない。
胸の奥にさな棘が刺さったような違を抱えたまま、そのは過ぎた。
*
異常が確信に変わるまで、週もかからなかった。
曜、私が緑のハイウエストのフレアスカートを穿いて勤した。
翌週の曜、鈴さんはまったく同じ緑のフレアスカートを穿いて現れた。
曜、私がライトグレーの判ストールを首元に巻いていくと、曜の鈴さんのデスクの背もたれには、同じ、同じフリンジのさのストールが掛けられていた。
いキャンバスのスニーカー、真鍮の細いバングル、ネイビーのバンドカラーシャツ。
すべて「翌」だった。
同じに被ることは絶対にない。
私が会社に着ていったが、まるで晩のタイムラグを経て、翌朝彼女の体へと転写される。
フロアの同僚たちは、最初の数回こそ「また似てるね」と笑っていたが、すぐに誰も気に留めなくなった。
ふたりともは百センチ、体型も標準な肉背だ。
髪型も肩にかかる程度のミディアムで、ろ姿の輪郭だけなら目には見分けがつかない。
オフィスので、私たちはいつのにか「似たような雰囲気のふたり」として景に溶け込んでいた。
気が悪かった。
偶然であるはずがない。
私はある曜、絶対に彼女が持っていないはずのを選んで試すことにした。
学代に古着で買った、褪せたインディゴブルーのデニムジャケット。
の袖にさな擦り切れがあり、襟の折り返しがし変形している、流遅れのオーバーサイズのものだ。
ふだんのオフィスカジュアルからは完全に浮いていたが、私はそれを羽織ってを過ごした。
翌朝、曜。
オフィスの扉がいた瞬、私の臓がたいに浸かった。
鈴さんが入ってきた。
羽織っていたのは、褪せたインディゴブルーの、肩の落ちたデニムジャケットだった。
シルエットも、落ちのいも、昨私が着ていたものと酷似していた。
違うのは、袖の擦り切れがないことだけだった。
鈴さんは私のデスクの横を通る際、に持っていた回覧類をそっと置きながら、囁くように言った。