"引っ越しを手伝った父に5000円、夫が隠した同居計画" 第16話
のの自分の名を指でなぞりながら言った。
「俺の会社を作るも、親父たちとの同居も、全部このがあるからできるってってた」
夫は、続けた。
「でも最初から、俺のじゃなかったんだな」
私は、はっきりと告げた。
「そうよ。このは私のであり、私自のよ」
夫は、さく頷いた。
「分かった。類は持ち帰って、ちゃんと読んでから判を押して郵送するよ」
私は、言った。
「お願いね」
夫は類を自分の鞄にしまい、ゆっくりとちがった。り際に、夫が1度だけ私を呼んだ。
「美紀」
私は、見げた。
「何?」
夫は、力なく微笑んだ。
「あの、お義父さんが言った通りだったよ。お父さんが引っ越しのに言われただろう。悔するなよって」
夫は、続けた。
「俺、あのの5000円のことじゃなくて、もっとずっとから全部違えてたんだな」
私は何も答えず、ただ静かに夫を見つめ返した。彼が自分の過ちの本当のきさに気づいたとしても、もう私には関係のないことだった。
「じゃあな、今までありがとう」
夫はくをげ、逃げるようにをていった。ガラス越しにざかっていく夫のろ姿を見送っても、私の胸には何の未練も湧かなかった。
テーブルのに残された夫のグラスの氷が、カランとさな音をてて溶けた。それは私を縛りつけていた透な鎖が、完全に解け落ちた音のように聞こえた。
婚届を提してから、季節は1つ巡った。
私は変わらずこのにみ続け、健太はあのマンスリーマンションからさらに別のさなアパートへと移ったと、の便りで聞いた。彼からの連絡は、婚が成してからは1度もない。
別居していた期も含めれば、もう1く顔をわせていなかった。この1、私は自分のペースで活をて直し、平穏な々を取り戻していた。
結婚していた頃のように、自分のらないところで勝な約束が結ばれているかと怯える必はない。仕事から帰ってきて、誰かの顔を窺いながら夕を作ることもなくなった。
しかし最になって、1つのいが私のを占めるようになっていた。このを、売ろう。休の朝、私はリビングの掃除をしながら、改めてこのを見回した。
広々としたリビングダイニング、2階にある使っていない3つの部。そして、義両親が荷物を置くはずだったあの階の。私1で暮らすには、ここはあまりにも広すぎた。
掃除も変だし、何よりこのには健太の記憶が染み付きすぎていた。彼が勝にい描いていたの残骸が、部のあちこちに透なのように落ちている気がするのだ。
私は、このを持ち続けることを私が勝った証拠や彼への趣返しにしたくはなかった。
過のしがらみを全て清算し、本当のでしく始めるためには、この所かられる必があると決した。
そのの午、私は実に話をかけた。
「お母さん、ちょっと相談があるんだけど」
母は、配そうな声をした。
「どうしたの、美紀。何かあった?」
私は、るく答えた。
「ううん。丈夫。実はね、今のを売って引っ越そうとってるの」
母は、驚いた。
「え、を売るの?せっかく買ったのに、もったいなくない?」
話の奥で、父の「どうした」という声が聞こえた。やがて話は父に代わった。
「を売るって本当か?」
私は、答えた。
「うん、本当よ。1だと広すぎるし、維持費もかかるから」
父はし黙った、静かに言った。
「そうか。で持つ必はない。おがそう決めたならそれでいい」
私は、謝した。
「ありがとう、お父さん」
父は、尋ねた。
「今度はいつだ?また伝いにくぞ」
父の言葉に、私はわず吹きしてしまった。
「うん。今度は丈夫。最初から最まで全部業者に頼むから」
父は、言った。
「そうか。まあ何かあったら言え」
私は、誘った。
「うん。引っ越しが終わったら、しい部にご飯べに来てね」
父は、承した。
「分かった」
それから数週、私は産会社とやり取りをし、はスムーズに売却が決まった。築浅の1戸建てということもあり、買いはすぐに見つかった。
売却益で残りのローンを完済し、元には祖母からの相続と私の貯がほとんどそのまま戻ってきた。