"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第7話
受話器の向こうで、母の気配がふっと静まった。 、父と連れ添い、様々な浮き沈みを見てきたの、静かな沈黙。
『……蒼太さんと、何かあったの?』
「……ごめん。まだ、うまく話せない」
母はく追及してこなかった。 責めることも、慌てることもなく、ただ静かに言った。
『彩乃。婚するかどうかとか、許せるかどうかとか、そういうきな結論は急がなくていいのよ』
「……うん」
『ただね、もしもう度そのと並んできていきたいとうなら、つだけ自分に聞いてみなさい。あなたが、そのと暮らすで、絶対に譲れないものは何?』
絶対に、譲れないもの。
私は目を閉じ、ベランダのすりをく握りしめた。
「……私ね、お母さん」
言葉が、迷いなく喉からこぼれ落ちた。
「事なことを、最にらされるには、度となりたくない」
話を切ったあと、私は横浜の自宅アパートへ向かった。 曜の午。夫が現に入っていて、絶対にの帯を狙った。
鍵でドアをける。 静まり返った玄関。 靴箱のに、見慣れないものが置かれていた。
私が履き古して、かかとのゴムが擦り減っていた黒のパンプス。 その靴底に、真しいビブラムソールが、狂いのない精密さで美しく張り直されていた。 革の部分当ても、丁寧にクリームで磨きげられ、品のように鈍いを放っている。
夫が、昨夜私がをたあとに、で直したのだ。 自分のでできる、唯の謝罪であるかのように。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。 痛かった。 こんなふうに、現の技術で妻の靴を直す優しさがあるのに。 どうしてその同じで、私のを勝に抱え込み、で決めようとしてしまうのか。
私はクローゼットから必な物のと、仕事の資料をトランクに詰めた。
そして、持っていた鍵を、靴箱のの製トレイに静かに置いた。 修理されたパンプスには、を触れなかった。
スマートフォンを取りし、夫の連絡先にいメッセージを打ち込んだ。
『鍵は置いていきます。しばらく、別々に暮らしましょう。これからのことは、お互いにで考えたいです』
送信ボタンを押し、私は度も振り返らずに部をた。
別居を始めて週が過ぎた頃、いがけない相から連絡が入った。
スマートフォンの画面に表示された通。 『神玲奈』
同窓会のグループチャットから私の連絡先を拾ったのだろう。 メッセージの文面は、あの夜の傲さが嘘のように丁寧だった。
『彩乃、先は本当にごめんなさい。どうしても直接会って、きちんとお詫びがしたいの。万でもいいから、しだけお茶のをくれないかな』
万はおそらく「分」
の誤変換だろうが、その焦り様が々しかった。
無することもできた。 だが、あの夜途で放りされたままのな記憶に、自分なりの終止符を打つ必もじていた。
曜の夕方、横浜駅の落ち着いたホテルのラウンジ。 指定された席に向かうと、玲奈はすでに座っていた。
あのの派なセリーヌのドレスではなく、控えめなベージュのアンサンブルニット。 アクセサリーもぶりなものに変えられ、化粧もずいぶんくなっていた。 私を見つけると、玲奈は弾かれたようにちがり、々とをげた。
「彩乃、来てくれてありがとう……本当に、ごめんなさい」
「座って。目つから」
私が淡々と促すと、玲奈はおずおずと子に腰をろした。 テーブルのには、座の老舗菓子の袋が置かれていた。 らかに産として用されたものだ。
「あの夜は、本当に失礼なことを言ってしまって……。私、お酒も入っていて、どうかしていたの。彩乃を傷つけるつもりなんて、本当になくて」
まただ。 「傷つけるつもりはなかった」。 誰もが免罪符のようにその言葉を使う。
「玲奈」
私は運ばれてきたストレートティーにをつけ、静かに言った。
「謝罪なら、もう分よ。あの夜のあなたの言葉はだったけれど、それで私がどうこうなるわけじゃないから」
玲奈の瞳に、かすかな堵のが差した。 だが、その堵は瞬で、別の計算いへときされた。
「……本当に、器が広いのね。昔から彩乃はそうだった。