"妻の浄水器は粗悪品、義母のキッチンには84万円" 第3話
作業員の田さんが、申し訳なさそうに控えめな声で言った。
「あの……奥さん。とりあえず、本体内部の洗浄と、もしよろしければしい正規品の取り付けをされますか? それとも……」
「……すみません」
私は画面を伏せ、くをげた。
「今は、器具を元の状態に戻していただくだけで結構です。張費とお賃はお支払いしますので」
「でも、このまま元の互換品を戻すのは、本当におすすめできませんが……」
「は、もう買い置きのペットボトルのものを使いますから。……本当に、申し訳ありませんでした」
田さんはそれ以何も追及せず、く点検の類を作成し、領収を切って帰っていった。
玄関のドアがカチャリと閉まり、鍵が回る音がしたあと、がにはんだような静寂だけが残された。
私はダイニングのパイプ子に腰をろし、両で顔を覆った。
指先が、微かに油の匂いを放っている。
今朝まで働いていた、スーパーの惣菜コーナーの揚げ油の匂いだ。
49歳。
パートタイマー。
千百円。
毎、午8から午3まで、ちっぱなしで何百枚もの豚カツやコロッケを揚げ続ける。
厨のはが渦巻き、型フライヤーの油煙で喉がイガイガする。
夕方くになると、の裏が焼けつくように痛み、ふくらはぎはパンパンに膨れがる。
私の両のふくらはぎには、肢静脈瘤のの血管が、蛇のように浮きていた。
ヶ、あまりの激痛に耐えかねて、私は仕事帰りにショッピングモールのにある靴にち寄ったことがあった。
ち仕事専用の、クッション性のいワークシューズ。
への負担を劇に減らしてくれるというその靴の値段は、税込みで千百円だった。
試し履きをしたとき、あまりの軽さと柔らかさに、泣きそうになったのを覚えている。
これがあれば、毎のあの激痛から解放されるかもしれない。
そのの夜、私は呂がりの夫に、控えめに相談したのだ。
自分のパート代はすべて、夫が管理する「活費座」に全額入するのが、結婚当初からのの絶対なルールだったからだ。
「浩さん、あのね。仕事用の靴がもう底が抜けそうになってて……もすごく痛むから、しいち仕事用のスニーカーを買いたいんだけど。千円くらいので」
夫は缶ビールを喉に流し込み、テレビのプロ野球継から目をさないまま、眉をひそめて言った。
「千円? 靴に千円もすのか?」
「でも、すごくの負担が軽くなる靴で……」
「美、今もギリギリだって言っただろ。気代もガス代もがってるんだ。それに『老千万円問題』ってニュースでやってるの見てないのか? 俺たちの世代なんて、退職ももどうなるか分からないんだぞ。
いつ何があってもいいように、今は円でもく貯めとかないといけない期なんだ」
夫はため息をつき、諭すように私の顔を見た。
「靴なんて、見栄えを気にしなきゃワークマンで千円台で買えるだろ。靴底がいくらいでげさなんだよ。おは計の危がりないんじゃないか?」
私は、胸の奥がきゅっと縮むような痛みを覚えながら、さくをげた。
「……ごめんなさい。私、自分のことしか考えてなくて」
「分かればいいんだよ。おが頑張って切り詰めてくれてるから、このはなんとか回ってるんだからな。族のために、もうし辛抱してくれ」
族のために。
その言葉を言われると、私は何も言い返せなくなった。
私は翌、靴へくのをやめた。
底がすり減ってツルツルになった黒いスニーカーに、百円均で買ったっぺらい敷きを押し込み、痛む指をごまかしながら今まで揚げ物を揚げ続けてきた。
エアコンだってそうだ。
気代がもったいないからと、夫が帰宅する夜7までは、どれだけ温が33度を超えても絶対にスイッチを入れなかった。
汗だくになりながら濡れタオルを首に巻き、団扇でを送りながら夕飯の支度をしてきた。
スーパーで買い物をするは、定価の肉や魚には目もくれず、午7過ぎに員が貼り歩く「半額」
や「20%引き」の見切り品シールをじっと待った。