"妻の浄水器は粗悪品、義母のキッチンには84万円" 第8話
実売価格で万円はらないはずの代物だった。
「お義母さん、これ……」
「ああ、それね。浩が先週持ってきてくれたのよ。『団は湿気がこもりやすいから、母さんの喉に悪い』って言ってねえ。本当にあの子は、気が利くんだから」
義母は嬉しそうに目を細め、私をリビングへと促した。
「さあ、たいお茶を淹れるわね。美さんも座って」
「あ、私がお伝いします。桃も剥きますから」
私は提げ袋を抱えたまま、義母の背を追ってキッチンへを踏み入れた。
そして、息を呑んだ。
「……え?」
私のが、キッチンの敷居ので凍りついた。
目のに広がっていたのは、築の公団宅の景ではなかった。
を基調とした、ピカピカの造理のワークトップ。
壁面には油汚れを寄せ付けない最のキッチンパネルが貼られ、にはスリム型のスタイリッシュなレンジフード。
そしてシンクには――グースネックの美しいタッチレス栓が据え付けられていた。
「お義母さん、これ……」
「ふふ、驚いたでしょう?」
義母は誇らしげに胸を張り、栓の根元にをかざした。
カチリとさな子音がして、勢いよく清らかなが流れす。
「先週、事が終わったばかりなのよ。ほら、タッチレスだからが汚れててもがるの。浩がね、『母さんも歳なんだから、しでも楽なキッチンにしなきゃダメだ』って、全部配してくれたのよ」
栓の側面には、見覚えのあるロゴが刻まれていた。
がと同じ、あの浄器メーカーの最位モデルのエンブレムだった。
「……先週?」
私の声が震えた。
「事は……来週からじゃなかったんですか?」
「来週? 何言ってるの、先のうちに契約して、先週の曜にはもう全部終わったわよ。浩が取ってち会ってくれてねえ」
ので、パズルのピースが音をてて噛みっていった。
あの見積。
『着予定:』とかれていたのは、期事の予定だったのだ。
先に付を払った事は、すでに完していた。
そして、あの青い段ボールに入っていた万千百円の純正フィルターは、今、目のにあるこの美しい造理のシンクの真で、静かにをろ過しているのだ。
「浩がね、業者さんに掛けって、番いい浄器をつけてくれたのよ」
義母は蔵庫から麦茶のポットを取りしながら、嬉しそうに饒舌に語り続けた。
「『母さんの体が番事だから、だけは番いいものをまなきゃいけない』って。あの子、昔から私の体のことばかり配してくれるの。美さん、本当にいいと結婚したわね」
私はシンクのにち尽くし、流れるをじっと見つめた。
透で、濁りのない、全な。
夫が「母親のために」買い与えた、本物の。
がのキッチンで、カッターで削られたプラスチックの末を吹きし、異臭を放っていたあの黒ずんだ互換品の残骸が、脳裏に焼き付いてれない。
「……お義母さん」
私の喉から、乾いた砂を吐きすような声がた。
「このリフォームの費用、いくらかかったかごですか?」
「費用?」
義母は麦茶を注ぐを止め、議そうに私を見た。
「さあ……詳しい額は聞いてないわよ。浩が『おの配は切しなくていい、全部俺に任せろ』って言うから。あの子、の昇で営業当が増えたんでしょう? 『うちの会社は今、業績が絶好調だから、母さんにこれくらいのことしたって痛くも痒くもない』って笑ってたわよ」
業績が絶好調。
痛くも痒くもない。
私のの奥で、夫の言葉が再される。
『物価で会社の業績も厳しいんだ』
『今もギリギリなんだから、余計なは使うなよ』
「……あの子、美さんにもちゃんと還元してるんでしょう?」
義母は悪気のない、純粋な好奇の籠もった笑顔で私を見つめた。
「『美にも毎分な活費を渡してるし、で美しいものべにったり、旅の計画もててる』って言ってたわよ。美さん、あの子に事にされてて幸せねえ」
シンクのが、たく流れ続けている。
私の臓が、鐘のように乱れ打っていた。
幸せ。
事にされている。
このは、本気でそう信じているのだ。
息子がで派に稼ぎ、庭を豊かに満たし、その余力で老いた母親に惜しみない孝をしている、絵に描いたような「孝息子の母」