みかん小説
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"妻の浄水器は粗悪品、義母のキッチンには84万円" 第16話

私はスーパーの仕事帰りに、自分のべたいものだけを買った。

見切り品のシールを待つのはやめた。

今朝採れたばかりの鮮なトマト、脂の乗った鮭の切り、しめの納豆。

さなフライパンで鮭を焼き、葉を刻んで奴に乗せる。

炊きたてのいご飯と、汁をきちんと取ったワカメと豆腐の噌汁。

テーブルの片隅にそれらを並べ、でをわせる。

「いただきます」と声にして箸をつけた。

パリッと焼けた鮭の皮のばしさと、ふっくらとしたの塩気が、舌のでほどけていく。

泣きそうになるほど、美しかった。

の嫌を伺わず、自分のためだけに作った事というものが、これほどまでに体の芯に染み渡るものだとはらなかった。

夜の。

ドタドタと引きずるような音をてて、夫が帰宅してきた。

には、コンビニのビニール袋がぶらがっている。

に入っているのは、底がげ底になったげ底の豚カツ弁当と、缶酎ハイが本。

夫はダイニングのテーブルを見て、息を呑んだ。

私のに並ぶ、湯気をてる鮭の定と、換気扇から漂う美しそうな汁のり。

「……おい」

夫は喉を鳴らし、めしそうに私を睨みつけた。

「本当に……俺の飯、作ってないのかよ」

「にいた通りよ。自分の事は、自分の遣いで調達する。

ルールでしょう?」

「母さんに話したんだよ! 事代、母さんが全額て替えたって……しかも俺に毎万返せって、借用まで送りつけてきやがった! 俺の取りから固定費の折半と母さんへの返済引いたら、元に万も残らないんだぞ!?」

夫はコンビニの袋をテーブルに叩きつけた。

の弁当のプラスチック容器が、けない音をてて凹む。

「昼飯だって、今から百円のちい蕎麦だぞ! 営業先で輩に缶コーヒー杯奢ることもできないんだ! 同僚に何て言われるか……俺のをしは考えろよ!」

私は箸を置き、穏やかに夫を見つめた。

「百円のお蕎麦、べられるだけいいじゃない」

「……は?」

「私、、昼休みはお茶漬け用の梅干し個入れた飯のタッパーだけだったわよ。百円の温かいお蕎麦すら、贅沢だとってしてた。それ、あなたが私にいてきた活よ」

夫の言葉が、喉の奥で詰まった。

顔が赤黒く鬱血していく。

「お……そんな昔のことまで、ネチネチと……」

「昔のことじゃないわ。昨の昼まで、私はそうやってきてたの」

私は再び箸を取り、鮭のをに運んだ。

「自分の稼ぎの範囲で、自分のべたものを買う。の社会なら、当たりのことでしょう? 万円残るなら分じゃない。見栄を張るのをやめれば、飢えにはしないわよ」

夫はわなわなと唇を震わせたが、もう鳴り返す気力すら残っていないようだった。

テーブルの端に腰掛け、め切ったコンビニ弁当の蓋を乱暴に引きちぎる。

子レンジで温めることすら忘れ、パサついたご飯を、喉を詰まらせそうになりながら胃袋へ流し込んでいた。

そのさく縮こまった背に、かつて私を「が狭い」「黒柱の苦労が分からないのか」と見していた男の威厳は、微も残っていなかった。

あるのは、の犠牲のに築かれた虚を叩き壊され、等の自分の惨めさに打ちのめされている、ただの男のれな残骸だけだった。

。

しい個座に、初めて私のパート代が満額で振り込まれた。

ATMの画面に表示された数字は、『108,450円』。

誰にも差しさなくていい。

誰の嫌を取るために削らなくてもいい。

私が、油煙のでち続け、自分の体を削って稼いだ、純度百パーセントの私の労働の対価。

私は通帳を胸に抱きしめ、そのまま駅のショッピングモールへと向かった。

目指すのは、ヶにち寄り、夫に「危がりない」となじられて諦めた、あの靴だった。

自ドアをくぐり、ウォーキングシューズのコーナーへ直する。

棚の最列に、あの黒いワークスニーカーが並んでいた。

ち仕事専用の反発ソール。

首をしっかりホールドする体インソール。

「いらっしゃいませ。サイズをおししましょうか?」

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