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"妻の浄水器は粗悪品、義母のキッチンには84万円" 第17話

員に声をかけられ、私は迷うことなく頷いた。

「センチをお願いします」

差しされたしい靴に、を滑り込ませる。

靴紐を結び、ちがった瞬。

「……あ」

わず、声が漏れた。

の裏を包み込む、のにっているかのような柔らかい反発力。

いつもならを踏み締めた瞬にる、ふくらはぎの引きつるような激痛が、嘘のように消えていた。

指先が自由にき、踏まずがよく押しげられる。

歩いてみる。

歩、歩。

が、勝にへる。

体が、信じられないほど軽い。

「いかがですか? のち仕事でも、疲れにくくなっていますよ」

「……これ、ください」

私の声は、し震えていた。

財布から、自分の名義のキャッシュカードを取りし、端末に差し込む。

『お支払い額:6,400円』

暗証番号を押す指先に、切の躊躇はなかった。

レシートと袋を受け取ったとき、界がじんわりと滲んで、員の顔がぼやけた。

千百円。

夫が母親のために湯のように使っていた万円のリフォーム代から見れば、百分のにも満たない、ささやかな額。

けれど、この千百円は、私がの結婚活ので、初めて「自分のために」使した、決定な自由の証だった。

その帰り、私はそのまま総病院の消化器内科へち寄った。

、夫に「の無駄だ」

と止められ、受診を先延ばしにし続けていた腸カメラの精密検査の予約を入れるためだ。

受付で問診票をきながら、私はく息を吸い込んだ。

もう、何つ回しにしない。

私の体も、私の健康も、私のも。

の声を聞く頃には、がの活は、完全に徹な「同居の契約関係」として定着していた。

夫は毎になると、無言で折半用の引き落とし座に万円を入した。

残りの料から義母への返済万円と、自のカードローンの返済を引くと、元には本当にタバコ代と昼飯代程度しか残らないようだった。

毎週末、パチンコや会社のみ会にかけていた夫は、休に歩もしなくなった。

リビングのソファーで、図館で借りてきた無料の文庫本を所なさげに読むか、テレビのニュースを音を絞って眺めるだけの々。

傲だった態度はを潜め、私と顔をわせるたびに、どこか顔を伺うような、怯えた線を向けてくるようになった。

ある曜の朝。

私が着替えを済ませ、し綺麗なカーディガンを羽織って玄関へ向かおうとしたのことだ。

ソファーからちがった夫が、恐る恐る声をかけてきた。

「……美」

「何?」

「どこか……かけるのか?」

「ええ。梅田まで。と約束してるの。昔からってみたかった、お料理の体験教に申し込んだから」

夫の眉が、ピクリとねた。

かつての癖が、無識にをついてそうになったのだろう。

夫は唇をもごもごさせ、さく言った。

「料理教……? そんなの、通う必あるのか? 結構……受講料、いんじゃないのか……」

空気が、瞬だけ止まった。

私は靴を履くを止め、ゆっくりと体を起こした。

そして、玄関ホールのかりので、夫の目を真っ直ぐに見つめ返した。

りも、嫌悪も込めない。

ただ、どこまでも透き通った、絶対な平穏をたたえた差しで。

「たまには、自分のために使ってもいいでしょう?」

夫の体が、ビクッと直した。

その言葉の裏にある、過のすべてのみを、夫は正確にいしたのだろう。

血の気の引いた顔で線を泳がせ、縮こまるように肩をすぼめた。

「……あ、いや。そうだな。悪かった。……ってらっしゃい」

夫はそれ以、言も発することができなかった。

さくうなだれて、リビングの奥へと消えていく。

私はしく買ったスニーカーの踵をトントンと鳴らし、ドアノブにをかけた。

にると、抜けるようなの青空が広がっていた。

犀の甘いりが、よい気と共に腔をくすぐる。

取りは驚くほど軽く、どこまでも歩いていけそうな気がした。

季節は巡り、あの息の詰まるような猛暑から、ちょうどが経った。

2027、の曜。

キッチンのインターホンが鳴り、モニターに作業姿の男性が映しされた。

『こんにちは、浄器の定期点検とカートリッジ交換に伺いました』

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