"十日間の偽出張と冷めた半熟卵" 第3話
ゆいの指摘は、半分は正しく、半分は私の本質を見誤っていた。もし私がこの結婚を投げしてもいいとっているなら、とっくに取り乱して彼を問い詰めていただろう。
だが、私はこのの結婚活をあまりにも真剣に守ろうとしていた。だからこそ、も連絡本よこさなかった夫のために、夕方からガスコンロのにち、を込めて豚の角煮を煮込んでいたのだ。
壁掛け計の針が、分を指した。
私は来がった料理を、めないうちに際よく卓へと配膳した。皿に盛った々の豚の角煮、ほうれんの胡麻え、作りのポテトサラダ、そして箸休めの浅漬け。
すべて、かつて弘が私の料理ので番好きだと褒めてくれた品々ばかりだった。準備をえた、私は子の背もたれに体を預け、静かにそのを待った。
分、玄関の子錠がピピッと乾いた子音をてて解錠された。
い扉が押しけられ、チャコールグレーのボストンバッグをにした弘が、音を忍ばせるようにして入ってきた。私はちがり、廊へ向けて歩踏みした。
夫は慣れた作で革靴を脱ぎ、つま先を揃えて靴箱の端に置いた。彼がにまとっていたのは、見覚えのないいネイビーブルーのジャケットだった。
仕ての良さからして、最調したものであることはだった。
「おかえりなさい」
私は穏やかな声を作って迎えた。弘は私の顔をちらりと見げ、すぐに線をダイニングテーブルのに並ぶ料理へと滑らせた。その取りが瞬、躊躇するように止まった。
「……わざわざ作らなくてもよかったのに」
夫はの籠もらない、平坦な声で言った。
「途で、軽く済ませてきたんだ」
「それでも、角煮をしだけでもべてみて」と、私は微かな期待を胸に宿しながら皿を指した。
「午ずっと、をかけて煮込んでいたのよ」
弘はしばらく玄関先で躊躇っていたが、観したようにい取りで卓のにみ、子に腰をろした。
彼は製のスプーンをに取ると、器から煮汁をすくい、ふーふーとさく息を吹きかけてから慎にに運んだ。私は息を詰めるようにして、その横顔を見守った。
彼はさく頷き、呟くように言った。
「……おいしいよ」
かつての彼なら、必ずもっと違う反応を見せていたはずだった。結婚してもない頃、私が料理本を片に慣れなつきでしい献に挑戦するたび、彼は違っていた。
玄関をけるなりキッチンへ駆け込んできて、鍋の蓋をけて見をし、親指をてて満面の笑みを浮かべてくれたものだ。
「本当にうまいよ、美咲。
をせるんじゃないか」
あの頃の彼の瞳には、純粋な満と私への誇らしさが満ちていた。
だが今、私の正面に座る男は、型通りの「おいしい」をにした、すぐにスプーンを卓へと置いた。
角煮を煮込むのに何かかったのかも、留守番のを私がどう過ごしたのかも、切尋ねてこなかった。ただ箸をに取り、肉の端をさくちぎって、義務からに運んで咀嚼するだけだった。
まるで、気のまない宿題を淡々と処理している徒のようだった。私は彼が自発にをくまで、沈黙を守り続けた。
やがて、肉をみ込んだ彼が、線を落としたままいをいた。
「……桜さんのお母さんが、昨、無事に退院したんだ」
「そうなのね」
私は声を荒げることもなく、静かに相槌を打った。
「無事でよかったわ」
夫は言い訳を探すように線を泳がせながら、言葉を継いだ。
「京に寄りがなくて、で病するのは本当に厳しい状況だったんだ。親戚はみんな州にいるらしくてね。術の同にサインをしなければならない、彼女のが震えて止まらなくて……見ていられなかった」
「それで、あなたがそのを握ってあげたの?」
私が問いかけると、弘はさく頷いた。そしてしのを置いて、付けすように言った。
「サインが終わった、お母さんが僕のを握って、付き添ってくれてありがとうって涙を流してね。
どうにかしてお礼にと商品券を渡そうとしてきたんだ。