"4000円を頼んだ私に、死んだはずの父から4000万円" 第17話
、で定の厨を切り盛りし、私を育てげるために張り詰め続けてきた肩の力が、音をてて抜けていくようだった。
「あんたには……苦労ばかりかけるね」
「何言ってるの。私が好きでやってるんだから」
私はベッドの柵越しに、母の乾いたを握った。皮膚ので、々しく、けれど確かに脈打つ血管の拍が伝わってくる。
「お母さん。退院して、体がしっかり落ち着いたらさ……何か、やりたいことある?」
私がそう尋ねると、母は怪訝そうに眉を寄せた。
「やりたいこと?」
「うん。どこかきたい所とか、べたいものとか。私、今までお母さんを『病しなきゃいけない』としてしか見てなかった気がして。お母さん自のこれからのこと、何も聞いてなかったから」
母はしばらく黙り込み、窓のを流れるいをじっと見つめていた。豪の過も、憎い男の記憶も、すべて通り過ぎたあとの、澄み切ったの。
やがて、母の元が、女のようにほんのしだけ緩んだ。
「……京都へ、きたいねぇ」
「京都?」
な名に、私は目を見張った。
「そうさ。代の頃、厨の仲と『葉の季節にみんなで嵐へこう』って約束してたんだよ。でも、すぐに奈をお腹に宿して、あのと揉めて……それどころじゃなくなっちまっただろ」
母は自嘲するように目を細めた。
「それから、油の匂いと仕込みに追われてさ。葉なんて、テレビのニュースでしか見たことがなかった。……度でいいから、あんたとで、本物の赤い葉を見てみたいね」
の奥が、ツンと痛んだ。
豪の邸宅でも、ブランド物のでも、贅沢な美でもない。母がの歳の果てに望んだのは、かつて自分のを投げ打って私を守ったことで、置きりにしてきたさな約束だった。
「こう」
私は母のを、ぎゅっと握りしめた。
「先からの許がたら、絶対に連れてくから。の京都、で見にこう」
母は照れくさそうに顔を背け、「無駄遣いするんじゃないよ」とさく笑った。その横顔を見て、私は確信した。私たちが守り抜いたのは、母のプライドだけじゃない。の女性として、これからのを自分のためにきる権利だったのだ。
術の、私は仕事を休み、悠もに無理を言って半休を取ってくれた。
術のの待。壁に埋め込まれた『術』の赤いランプを、私たちは番端の子に並んで見つめ続けていた。たいプラスチックの触。消毒液の匂い。テレビの音だけがく響く空で、悠が温かい缶のお茶を私のに握らせてくれた。
「丈夫だよ」
夫の静かな声が、張り詰めた空気を優しく解きほぐす。
「お母さんはいだ。、俺みたいな得体のれない若造に『皿を洗って飯をえ』って啖呵を切ったなんだから。こんなところで負けるわけがない」
「……うん」
私は温かい缶を両で包み込み、さく頷いた。
ランプが消え、術のい扉がいたのは、始から半のことだった。担当医が青いオペ着のままにてきて、マスクをした。
「ご族の方、お待たせしました」
ちがった私の膝が、微かに震える。
「術は、極めて順調に終しました。しい弁は理な位置に留置され、血液の逆流も完全に消失しています。カテーテルの刺入からの血もありません。今夜は集治療で経過を観察しますが、には般病棟へ戻れる見込みです」
その瞬、体の力が気に抜け、そのに崩れ落ちそうになった。悠が素く私の肩を抱き止め、支えてくれる。
「ありがとうございました……本当に、ありがとうございました……!」
涙で界がぐしゃぐしゃになりながら、私たちは何度も、何度もをげ続けた。
数、母は般病棟のベッドで、すっかり血の戻った顔で病院の煮物をに運んでいた。以のように、しいただけで息を切らすこともない。唇のも消え、肌には確かな気が宿っていた。
退院の続きを終えた、私は病院の自精算に診察券を通した。
額療養費制度が適用された請求額は、万千円。信託座から正式に発された切で決済を済ませ、元に残った領収をバッグに収める。