"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第7話
「佐伯さん。世話をしに来たんじゃない。……それよりつ、確認したいことがあるんだが」
「は、はい! 何でしょうか、岡田専務!」
「あの夜の宴会のことだ。あんた、ホテルのロビーで奥さんに全額払わせたそうだな」
会議の空気が、瞬で凍りついた。
夫の顔から、血の気が引いていくのが目に見えるようだった。
「え……? あ、いや、それは……」
「148万円だそうだ」
藤沢さんが、元に置かれた茶封筒に指を添えながら、静かに言った。その声には鳴り声のようなトゲは切ない。だからこそ、底れないたさがあった。
「修師匠の古希祝いだ。俺たちも、師匠の節目を祝いたいで駆けつけた。だがな、あの席を55にまで膨らませて、自分の内を呼んでい酒を注文させたのはあんただと聞いたぞ」
「い、いや! 藤沢社、あれは夫婦のことですから! 誰のカードで切ったかというだけの話で、計としては同じというか……」
夫は必に取り繕おうとした。だが、その見苦しい言い訳を、藤社が刀両断にした。
「同じ財布だと?」
藤社が机のに両肘をつき、を乗りした。
「奥さんはあんたのカードじゃなく、自分個の蓄えから切った。あんたが『おの親だろ、なんで俺が払うんだ』と言い放ったからだ。……ホテルのスタッフが、うちの若いのに全部話してくれたよ。『野寺先の娘さんが、あまりにも気の毒だった』とな」
夫のが、パクパクと魚のように閉した。言葉がない。のでは完璧な『良き夫』『脈の広い能な営業部』を演じてきた化けの皮が、初対面の仕事相ので、無残に剥ぎ取られていく。
「師匠の板を勝に使ってを集め、最は娘さんに恥をかかせて請求を押し付ける。……佐伯さん、あんた、として恥ずかしくないのか」
神技師の静かな言が、鋭い針のように夫のプライドを貫いた。
夫は真っ赤になったり真っ青になったりを繰り返しながら、それでも営業マンの浅恵で話を逸らそうとした。
「も、申し訳ありません! しかしそれは、あくまで私どもの庭内のき届きでございまして……本の議題である設備更の件とは、切関係がございません! が社が提案する型軸加のスペックと価格競争力には、絶対の自信を持っております!」
夫は震えるで、革のブリーフケースから分い提案を取りし、テーブルのに滑らせた。表には、文字でコンソーシアムの名が誇らしげに印刷されている。
藤沢さんはその類にを触れなかった。ただ、自らの元にあった別の類の束を、パラリと枚めくった。
「関係がない、か」
藤沢さんの目が、細められた。
「佐伯さん。あんたの会社が提してきた事審査類の、添付資料『技術支援体制』の欄だ」
机のに、枚のA4用が差しされた。そこには、蛍ペンで黄くハイライトされた文があった。
【本プロジェクトにおける加公差の保証および導入プロセス指導について、元野寺精密代表・卓越技能章受章者である野寺修氏を最技術顧問として招聘済み。全導入企業への程監修を無償提供する】
文字を見た瞬、夫の喉が完全に引きつった。ヒュッ、と乾いた呼吸音が静かな部に漏れる。
「……野寺先が、あんたの会社の技術顧問として指導に入る。そう記されているな」
藤沢さんの指先が、机をコツリと叩いた。
「が社をはじめ、ここにいる各社がこの提案に興を持ったのは、械のカタログスペックじゃない。あの頑固で、ミクロン単位の妥協も許さない野寺修が、最終程の検収を見るという文があったからだ」
「そ、それは……」
「先の古希祝いの席で、師匠に直接確かめさせてもらったよ」
藤沢さんの徹な言葉に、夫の全がビクッとねた。
「……え?」
「宴席の終わり際、師匠に『今度のプロジェクト、先に監修していただけるならこれほどいことはありません』と挨拶したんだ。そうしたら師匠は何と仰ったとう?」
藤沢さんは元のペンを置き、夫の目を真っ直ぐに見据えた。
「『何のことだ? 俺はもう引退しただ。
誰の顧問も引き受けていないし、健太郎君の仕事の話なんて切聞いていない』……そう仰ったよ」