"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第9話
スクロールする指が、ある箇所で止まった。
、の産業振興助成を受けた、精密型プロジェクトの報告。、の試作加ネットワークが共同受注した、航空宇宙向け難削材テスト加の提案。
そのすべての『技術監修』『品質管理アドバイザー』の欄に、同じ文字が印刷されていた。
【野寺修(元野寺精密代表)】
息が止まりそうになった。
文字も違わない。父の名だった。
(どうして……?)
父は、脳梗塞で倒れかけたのをに、惜しまれながらを畳んでいる。械をすべて弟子たちに譲り、今は自宅の敷内にあるさなプレハブので、所の頼まれものの刃物を研いだり、古い治具の修理をたまに引き受けるだけの、完全な隠居のだ。
どこかの企業の顧問に就任したなどという話は、度も聞いたことがなかった。ましてや、娘の私にすら内緒で、そんな掛かりなプロジェクトに関わるはずがない。
父は昔から、自分のの届かない仕事には絶対に判を押さないだった。『図面枚に引かれた線のみをらない奴は、職じゃない』それが父の癖だった。
計を見る。午を過ぎていた。
私はデスクのの類をく片付け、定退社の申請をした。会社の駐にめてあった軽自にび乗り、刈から方面へ向けてをらせた。
夫から着信が件入っていたが、すべて無した。今、確かめなければならない相は、夫ではない。
夕暮れの国を抜け、昔ながらの宅に入る。の敷の奥に建つ、トタン根のプレハブ。窓から、蛍灯のいが漏れていた。
をめ、え込む気のにりつ。プレハブのドアをけると、幼い頃から嗅ぎ慣れた、切削油と研磨の匂いが腔を突いた。
「お父さん」
作業台に向かって腰を丸め、ノギスを片に真鍮のさなブロックを測定していた父が、鏡の縁を押しげて振り返った。
「……真由美か。どうした、連絡もなしに。健太郎君はどうしたんだ?」
父の穏やかな声。その顔には、先の古希祝いで見せてくれた、あの柔らかな笑顔の名残があった。
私は息をえながら、プレハブの作業台へと歩み寄った。バッグから、会社でプリントアウトしてきた数枚の資料を取りす。
「お父さん。これを見てほしいの」
「なんだ、これは?」
父は油のついたをウエスで丁寧に拭き、老鏡をかけ直してを受け取った。
「これ……健太郎さんの会社が、藤沢さんのところにした提案の部。それと、過数のプロジェクト資料」
私は父の目を見つめ、震えそうになる声を必に抑えながら尋ねた。
「お父さん、健太郎さんの会社から、技術顧問の依頼を受けたことある? ……藤沢さんたちのプロジェクトで、程の監修を引き受けるって、約束した?」
父の眉が、ゆっくりと寄っていった。類に落とされていた線が、のを素くる。
【最技術顧問:野寺修】【卓越技能章受章者による全数検収保証】
その文字を読んだ瞬、父のが止まった。
「……なんの冗談だ、これは」
「冗談じゃないの。今の午、藤沢精で説会があった。健太郎さんは、この資料をそのまま提したのよ。お父さんがバックについてるから、品質は絶対に保証できるって」
父は無言のまま、次のページをめくった。のの資料、の航空宇宙の提案。そこにもびっしりとかれた、自分の経歴と名。
「……らんな」
父の声から、すべての抑揚が消えていた。
「俺は、こんな話は切聞いていない。健太郎君からも、彼の会社からも、顧問の依頼など度も受けておらん」
作業のに、くたい沈黙が落ちた。
蛍灯のジーという微かな放音だけが響く。父の横顔は、鉄を削り続けてきた職の、徹で厳しいものに変わっていた。
「お父さん……本当に、言も聞いてなかったのね?」
「ああ」
父は静かに類を机のに置いた。その指先には、油と属が染み込んでいる。何も、嘘をつかず、誤魔化さず、コンマミリの狂いも許さずに鉄と向きってきただった。
「健太郎君は、たまにここに顔をしては、『親父さん、最のの景気はどうですか』と聞いていくだけだった。