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"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第16話

それから、今週末にてって」

「……え?」

「別居よ。あなたが自分の親の面倒を、自分の稼いだおだけで背負い、自分ので活しなさい。……私のおは、円たりともあなたたちの見栄には使わせない」

夫は何も言えなかった。ただ青ざめた唇を噛み締め、震えるでボールペンを握り、指示された箇所に名をき殴った。その背は、かつて営業部として踏ん反り返っていた男のものとは、似ても似つかないほどさく縮こまっていた。

その夜。夫が寝へ引きこもり、のが静まり返った午。元のスマートフォンが、く震えた。

画面を見ると、『実・父』の文字。

私は胸の奥がきゅっと締まるのをじながら、通話ボタンを押した。

「もしもし、お父さん?」

『真由美か。……夜分にすまんな』

受話器から聞こえてきたのは、いつもの、くて温かい父の声だった。昼の嵐のような騒が嘘のように、穏やかな波の音のような響き。

「ううん。丈夫よ。お父さん、体調は?」

『俺はピンピンしとるよ。……それより、藤沢から連絡があった』

臓が、トクンとさくねた。

「藤沢さんから……」

『ああ。健太郎君の会社、社内処分がたそうだな。……藤沢はな、『師匠、これでよかったんでしょうか』と、し気に病んでいたよ』

「……お父さん、ごめんなさい。私の結婚のせいで、お父さんや藤沢さんにまで、あんな嫌ないをさせて……」

わず声が震えそうになった。私がもっとく、夫の浅ましさに見切りをつけていれば。父が守ってきた潔な名に、を塗らせずに済んだはずなのに。

だが、父は静かに、優しく笑った。

『謝るな、真由美。おがをげることじゃない』

受話器の向こうで、父がく息を吸い込む音がした。

『それでな、真由美。母さんとさっきまで話しっていたんだが……あのホテルの148万のことだ』

「え……?」

『お、でカードを切ったそうだな。……俺の古希祝いだ。俺を祝うために集まってくれた席のを、娘に背負わせたままにできるわけがない。、俺の退職の座から、148万全額おの座に振り込む。……それで全部、終わりにしなさい』

目が、瞬でくなった。涙がぽろぽろと零れ落ち、スマートフォンの画面を濡らしていく。

父は、っていたのだ。私がどれほどの屈辱に耐え、どれほどの痛みをでみ込んで、あの夜ロビーでカードをしたのかを。そして、その傷を、自分の蓄えで塞いでやろうとしてくれている。

「……お父さん」

私は涙をの甲で乱暴に拭い、をすすった。そして、呼吸をつして、しっかりと喉の奥から声をした。

「ありがとう。……から、ありがとう」

『……うん』

「でもね、お父さん。そのおは、受け取れない」

話の向こうの父が、し驚いたように息を止めた。

「どうしてだ、真由美。慮することはないんだぞ」

「慮じゃないの」

私はリビングの窓の、刈の静かな夜の並みを見つめた。

「これは、私ののケジメなの。波をてたくないからっておをし続けて、相の図々しさを育ててしまったのは、でもない私自のさだった。……だから、あの148万は、私が私の力で片付ける。健太郎さんからも、きっちり契約を交わして分割で回収するわ」

受話器を握るに、自然と力がこもる。

「私のおで、私の責任で、自分の尊厳を取り戻したいの。……お父さんに甘えておをしてもらったら、私、にめない気がするから」

い、静かながあった。

やがて、受話器の向こうから、く、しかし力い笑い声が漏れてきた。

『……そうか』

父のその言には、かつて旋盤ので、妥協を許さずに弟子を育てげていた職の厳しさと、娘の自をから誇らしくう父親の温もりが、同に宿っていた。

『さすがは、俺の娘だ。……よし、分かった。おの好きにしなさい』

「うん。……ありがとう、お父さん」

通話を終えた、私はたくなったお茶を気にみ干した。頬に残った涙の跡は、もうたくなかった。

誰かに勝たせてもらうんじゃない。自分のでち、自分ので境界線を引き直す。その覚悟が、私の胸の奥で、確固たる芯となって固まっていた。

それから、ヶが過ぎた。

季節は巡り、の乾いたのはり、柔らかい初の陽がを包み込んでいた。

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