"家族はすき焼き、義姉だけが台所で水かけご飯を食べていた" 第5話
テレビの笑い声だけが、虚しく空に響いている。
直の顔から、ふっと笑みが消えかけた。
けれどすぐに、いつもの取り繕うような、頼りない笑顔を浮かべようとする。
「え……何の話? 隠し事なんて、あるわけないだろ。急にどうしたんだよ」
「そうよ、遥さん。婚々、縁起でもないこと言わないでちょうだい」
義母が苛ったようにを挟む。
私は息をく吸い込んだ。
そして、こので決して発してはならなかったはずの、その名をにした。
「悠斗くんって、誰?」
カチャリ、と音がした。
義母の元で、湯呑みが茶托にぶつかった音だった。
直の顔から、完全に血の気が引いていくのが見えた。
いたが塞がらず、剥きかけのみかんがポロリと膝のに落ちる。
沈黙。
息が詰まるほどの、苦しい静寂が部を支配した。
その静寂を切り裂いたのは、直の釈ではなかった。
義母がバンッと座卓を叩き、鬼のような形相でちがったのだ。
そして、私の背――暗い廊に向かって、切り声を張りげた。
「真帆さんッ! あなた、余計なことを吹き込んだわね!?」
その叫び声を聞いた瞬。
私のので、夫と、この族に対するのようなものが、完全に音をててんだ。
すべて、本当だったのだ。
鳴り声をげた義母の肩が、激しくしていた。
座卓ののすき焼き鍋から、甘辛い湯気がぼんやりとちっている。
その向こうで、直は膝のに落ちたみかんの皮を見つめたまま、微だにできなかった。
廊の暗がりから、真帆さんがゆっくりと姿を現した。
コートの襟元を握りしめ、唇を文字に結んでいる。
その顔には、先ほど台所でたいご飯を喉に押し込んでいたの、怯えた表はもうなかった。
「真帆さん! あなた、遥さんに何を吹き込んだの!? うちの恥をでベラベラ喋って、何のつもりなのよ!」
義母の甲い声が、狭い居に突き刺さる。
「……吹き込んでなんかいません」
真帆さんの声はさかった。
けれど、決して震えてはいなかった。
「事実を、お伝えしただけです。遥さんには、る権利がありましたから」
「権利!? 何の権利よ! 族のことに首を突っ込んで、直の結婚を壊す気!?」
「お義母さん」
私は遮るように、静かに言った。
自分の声が、驚くほどくえ切っているのが分かった。
義母がハッとしたように私を見る。
その瞳の奥には、取り返しのつかない失言をしてしまったという焦りと、嫁に対する苛ちが渦巻いていた。
「……真帆さんを鳴るのを、やめていただけますか。私は、直に聞いているんです」
座卓を挟んで、夫と正対した。
直は線を泳がせ、私の目を見ようとしない。
「直。由さんと悠斗くんのこと、私に度でも話したことあった?」
「……遥、それは」
「私の目を見て答えて」
直の喉仏が、苦しそうにした。
、私が信じて寄り添ってきた男の顔が、見たこともないほどけなく歪んでいく。
「……ごめん」
消え入りそうな声だった。
「ごめんって、何? 悠斗くんは、あなたの息子なの?」
「……うん」
絞りすような肯定。
その言が落ちた瞬、胸の奥で何かが完全に砕け散った。
「でも、遥、聞いてくれ。あれは……全部、過のことなんだ。由とはもう何もに終わってる。籍だって入れてないし、本当に昔の話なんだよ」
「過?」
わず、乾いた笑いが喉から漏れそうになった。
「あの子は今、歳よ。歳の男の子が、今この瞬も息をして、きてるの。どこが過なの? 父親が必な齢の子どもがきているのに、どうしてそれが『終わった昔の話』になるの?」
「男にはいろいろあるのよ!」
割って入ったのは、またしても義母だった。
腕を組み、さも当たりの理屈を並べるように、私を睨みつけてくる。
「若気の至りってものがあるでしょう。相の女のだって納得してで育ててるんだし、直と結婚したわけじゃないんだから。遥さん、あなた病院で働いてる派な薬剤師さんなんでしょう? いろんな患者さんや複雑な庭を見てきたんじゃないの? そのくらいの分別、持てないわけ?」
喉の奥が、りでカーッとくなった。
「分別?」
「そうよ。男の過を丸ごと受け入れて支えるのが、妻の度量ってもんじゃないの。