"家族はすき焼き、義姉だけが台所で水かけご飯を食べていた" 第8話
直が叫んだ。
その言葉を聞いた瞬、私の脳裏に、喫茶で真帆さんから聞かされた義母の言葉が蘇った。
『籍さえ入れてしまえば、こっちのものよ。世体を気にして、簡単には別れられないんだから』
本当に、親子そっくりだった。
最まで、法な縛りと世体で私を脅し、屈させられると信じ込んでいる。
「民法第747条」
私のから滑りた言葉に、直がピクリときを止めた。
「詐欺による婚姻の取消し。あなたが子どもがいる事実を図に隠し、経済負担を押し付ける目で婚姻届を提させたことは、確な法為よ。取り消しが認められなくても、婚姻を継続しがたいな事由として、裁判婚も慰謝料請求も分に成する」
薬剤師として、法な類や公な続きには倍触れてきた。
で喚き散らすことなどしない。
淡々と、徹に、制度の刃を突きつける。
直の顔から、完全に気が失われた。
法律という言葉をされた瞬、それまで勢いづいていた義母も言葉を失い、をパクパクと魚のように閉させている。
「今の連絡は、すべて面か、私の代理を通しています。直接私の職やアパートに来たら、即座に警察を呼びますから」
私はハンドバッグを肩にかけ、居に背を向けた。
真帆さんが、廊の端で静かに私を見つめていた。
その瞳に、く礼する。
「真帆さん。教えてくださって、本当にありがとうございました」
「遥さん……」
「失礼します」
玄関に向かって歩きす。
背で、義母が「何よあの女! ちょっと資格があるからって偉そうに!」と喚き散らす声と、直が「遥! 待ってくれ、遥!」とけなく叫ぶ声が追いかけてきた。
けれど、もう度と振り返る気は起きなかった。
玄関のにり、スニーカーにを入れる。
靴紐を結び直していると、パタパタと廊をる音がづいてきた。
直かとい構えたが、現れたのは義兄の太さんだった。
太さんは玄関のがり框にをつき、息を切らしながら、ひどく暗い目で私を見ろしていた。
「……遥さん」
「何ですか。引き止めるつもりなら、無駄です」
私がたく言い放つと、太さんは力なく首を横に振った。
その表には、直のような焦りではなく、何かに蝕まれて麻痺してしまった特の、い諦のようなものが滲んでいた。
太さんは居の方をちらりと振り返り、誰も追ってこないことを確認すると、声を極限まで潜めてこう呟いた。
「直は……最初じゃないんだ」
私は靴紐を結ぶを止め、顔をげた。
「……どういうことですか?」
太さんは乾いた唇を舐め、苦渋に満ちた声で言った。
「、真帆がこのに嫁いできたも……全部、同じだったんだよ。
母さんは、真帆の持っていた個資産をあてにして、俺たちを結婚させたんだ」
玄関のえ切ったたたきに、義兄の声だけがく沈んでいた。
「、真帆がこのに嫁いできたも……全部、同じだったんだよ。母さんは、真帆の持っていた個資産をあてにして、俺たちを結婚させたんだ」
たい夜が、隙だらけの引き戸の隙から吹き込んできた。
首のあたりが、すうっとえていく。
「……個資産?」
わず聞き返した。
太さんは、居の方をもう度恐る恐る振り返った。
奥からは、義母が器を乱暴に片付けるガチャガチャという甲い音と、直のくぐもったをすする声が響いている。
「真帆は元々、会計事務所で働いてたんだ。実も堅実なで、結婚するから自分名義のさな投資用マンションと、それなりの貯蓄を持ってた。……母さんは、最初からそれをってたんだよ」
乾いた笑いが、太さんの唇から漏れた。
「『しっかりしたお嫁さんでだわ』って、結婚はあんなに優しく褒めちぎってた。でも、籍を入れた途端に態度が変したんだ。親戚の確定申告をタダでやらせたり、うちの帳簿の穴埋めをさせたり……挙句の果てに、俺の会社の資繰りが怪しくなったは、真帆のマンションを担保に入れろって毎責めてた」
胃の奥が、ぎゅっと雑巾のように絞られる覚がした。
「……太さんは、それを止めなかったんですか」