"家族はすき焼き、義姉だけが台所で水かけご飯を食べていた" 第15話
「そんなに嫌ならねえ! 最初からうちの嫁になんか、ならなければよかったのよッ!!」
居酒の個に、義母の絶叫が霊した。
直が息を呑み、太さんが青ざめる。
言ってはならない最の線を、義母自らが踏み越えた瞬だった。
私は、ゆっくりと息を吐きした。
そして、どこまでも静かに、穏やかに、こう返した。
「本当のことをっていたら、私も絶対に結婚なんてしませんでしたよ」
義母の呼吸が止まった。
「だから……あなたたちは、私に隠したんですよね?」
完全な沈黙が、部を支配した。
義母の目がきく見かれ、いたから言葉が漏れることは度となかった。
自らのエゴと欺瞞を、自らので完全に証してしまったのだ。
直は膝のに両をつき、ただ絶望したように震えていた。
私はちがり、コートを羽織った。
誰の顔をうかがう必も、誰の許しを請う必もない。
「類は、すべて弁護士を通して送ります。それでは、失礼します」
真帆さんも同にちがった。
「私も失礼します。これからは、私の弁護士を通してください」
つの音が、静かに部をていく。
背から、義母が子折れるように崩れ落ちる気配がしたが、度も振り返ることはなかった。
季節は巡り、たかったのに、柔らかなの匂いが混じり始めていた。
あの族会議から、ヶが経過していた。
私と直の婚姻関係は、協議婚という形で法に完全に終した。
直は最初こそ抵抗していたものの、弁護士から提示された証拠の数々と、民法の法為責任をに、最終には婚届に署名・押印せざるを得なくなった。
巨額の慰謝料をふんだくって破滅させた、なんていう派な結末ではない。
居のために私が支払っていたや財の費用をきっちりと清算させ、私は元の姓である「野」へと戻った。
直は今、由さんと公正証を交わし、悠斗くんへの養育費を毎逃げずに支払う活を送っていると聞いた。
甘やかしてくれる母親の庇護かられ、自分が犯した誠実のツケを、毎の与細を見るたびに噛み締めているはずだ。
けれど、もう私には関係のないことだった。
私は総病院の薬剤師として、変わらず忙しい々を送っている。
のポケットにメモ帳を差し込み、病棟と調剤を往復する毎。
結婚していたの記憶は、まるでい昔に見た悪のように、々の確かな活のに溶けて消えかけていた。
ただつ、あの来事が私に残してくれたものがあった。
休の午。
私は買いしの袋を抱えて、駅からしれた宅にある、築浅の層マンションのにっていた。
インターホンを押すと、すぐにるい声が返ってきた。
オートロックが解錠され、エレベーターで階へがる。
玄関のドアがくと、エプロンをつけた真帆さんが、満面の笑みで迎えてくれた。
「遥さん、いらっしゃい! ちょうど煮込めたところよ」
部のには、欲をそそるスパイスのりがふわりと漂っていた。
向きのきな窓から柔らかな差しが差し込むリビングは、真帆さんの好みの欧具ですっきりとえられている。
真帆さんは太さんとの婚姻関係を今すぐ解消したわけではなかった。
けれど、完全に義実とは縁を切り、自分名義のマンションで暮らしを始めている。
太さんは週末ごとに通い、真帆さんの活費や事を伝いながら、関係をゼロからやり直すための「試用期」を過ごしているのだという。
許すかどうかを決める権利は、完全に真帆さんののにあった。
「いい匂いですね」
「ふふ、今は玉ねぎをしっかり炒めたチキンカレーにしたの。遥さん、辛いの平気だったでしょう?」
「好きです」
キッチンから、コトコトと鍋の煮えるよい音が響く。
私は買ってきたサラダ用の野菜とドレッシングをテーブルのに並べた。
そこには、誰かを序列で縛るような空気はどこにもなかった。
料理を作ると、べる。
どちらかが偉いわけでも、どちらかが虐げられるわけでもない。
「はい、お待たせ」
真帆さんが、湯気のつきな皿をつ、両に持って運んできた。