"「月5万払うから」離婚した私に介護を頼む元夫" 第15話
「国が全部タダでやってくれるんじゃないのか!?」
健のそのけない叫び声に、窓の職員は慇懃無礼にこう答えたそうだ。
「ご族様が担えないは、民の自費サービスをご契約いただくしかございません。額で数万円単位の費用がかかりますが、いかがなさいますか?」
その額を聞いた瞬、は真っ青になって押し黙ったという。
、私がタダで、自分の肉体とを削って提供し続けていた労働。それを公な制度や民の業者に頼もうとした瞬、どれほど途方もない対価が必になるのか。はようやく、自分たちが踏みにじり、放してしまったものの「本当の値段」を突きつけられたのだ。
「千代子さんもね、すっかりさくなっちゃって」
田辺さんが声を潜めた。
「今まで『息子が全部やってくれる』って威張ってたのに、その息子からも、娘からも、目ので厄介者扱いされて鳴られて……。さすがの千代子さんも、ショックで腰が抜けそうになってたわよ」
自業自得だった。誰かの犠牲のにしか成りたない偽りの族など、皮を枚剥がせばそんなものだ。
それからヶが過ぎた頃。私は休の夕方、駅の型スーパーで買い物をしていた。
青果売りの片隅で、見覚えのある背を見かけた。
髪が目つようになり、し背の丸まった老。
千代子だった。
以のように、元の名士の妻気取りで着飾った姿はない。くたびれたフリースのベストを羽織り、にさなメモ用を固く握りしめている。
私はち止まり、しれた棚のからその姿を見つめた。
千代子は、震える指先で鏡を押しげながら、特売の根と通常価格のキャベツのポップを何度も見比べていた。メモには、揃いな文字で「豆腐」「納豆」「パン」とかれているのが見える。
買い物のすべてを私に任せ、い荷物を持ったこともなく、「美さん、これ物じゃないの」と文句ばかり言っていたが、数円の差額に迷い、ため息をつきながら買い物かごにい豆腐をつ入れている。
誰も代わりに買い物をしてくれない。誰も献を考えてくれない。自分ので歩き、自分の財布からをし、自分の命を自分で繋ぐしかない。
その姿は確かにさく、れに見えたかもしれない。けれど、私のに同の波配は滴も湧かなかった。
歳。遅すぎるけれど、として当たりの現実に、ようやくを踏み入れただけだ。
声をかけることもせず、私は静かに踵を返した。もう、私があのの荷を背負う理由はどこにもない。
季節が巡り、の柔らかいがを包み始めた頃。
私の部には、しい具がしずつ増えていた。
欧のるい目のダイニングテーブルに、触りのいいリネンカーテン。ベランダには、ずっと育ててみたかったオリーブの鉢植えが、柔らかな芽をつけている。
週末には、ずっと興のあった陶芸教に通い始めた。ろくろを回し、たいの触に集しているは、のの雑音が完全に消える。焼きがった歪な形の湯呑みは、世界でつだけの、私のための器だ。
信用庫の仕事でも、の事異で業務役席への昇が決まった。を自分のスキルアップや休養のために使えるようになり、資格取得の勉も順調にんでいる。
誰かの嫌を損ねないようにと息を潜め、携帯が鳴るたびに臓をねさせていたが、まるでい世の来事のようにじられた。
ある曜。朝の澄んだので、ゆっくりと淹れたての茶をんでいた。
テーブルのに置いたスマートフォンが、度だけ静かに震えた。
画面に表示された通。元夫・健からのショートメッセージだった。
番号を変えることも考えたが、名義変更や分割の法続きが完全に完するまではと残しておいた回線だ。すべての続きが終わってから、初めて届いた連絡だった。
私はカップを置き、画面をいた。
文のメッセージが、そこに並んでいた。
『美へ。迷惑だとは分かっているが、最に度だけ伝えさせてほしい。