"「娘に頼まれたから」深夜に30個の弁当を作る母、私は何も知らなかった" 第3話
母はそう言って、器棚の引きしから、角が擦り切れた学ノートを取りしてきた。
表には、母の几帳面な字で『歩美 お弁当仕入れ控え』とかれている。
ページをめくると、スーパーのレシートが几帳面にテープで貼り付けられ、々の記録がびっしりとき込まれていた。
『鶏もも肉 4kg 3,980円』『業務スーパー 米10kg 3,480円』『弁当容器・仕切りカップ・割り箸 5,200円』『保剤・除菌シート 1,100円』『卵 6パック 1,580円』
数字の横には、母のさなメモ。『歩美の好きな甘い卵焼きめ』『野菜は国産のものをしっかり煮含める』
半分。最のページにかれた計額の数字を見た瞬、私の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
――計 234,600円。
万円以。暮らしの母が、慎ましく切り詰めて暮らしているから、削りされた額だった。
「お母さん……っ」
「歩美、泣かないで。いいのよ、あんたがちゃんと頑張れてるなら、お母さんはそれだけで……」
「頑張ってなんかない!!」
私はわず叫んでいた。
「私、保険会社の事務しかやってない! お弁当なんて、度も考えたこともない! これ、全部嘘なの!!」
母が息を呑んだ。その顔から、完全に表が抜け落ちていく。
ので、バラバラだったピースが、おぞましい絵柄を結んでいく。
最、所の婦会や域コミュニティで、義母の恵子さんがやたらと羽振りが良く、々になっていた理由。
「恵子さんの作りお弁当、庭で本当に美しいわ」「素材のが活きてる」と、所の奥様方に絶賛されていたこと。
義母は料理が苦だ。普段、私たちが義実にっても、卓に並ぶのはスーパーの惣菜か、ばかり。それなのに最、義母は町内会の集まりやサークル活に、誇らしげにお弁当を持ち寄っていた。
『私ね、域のみんなのために、毎朝に起きて真込めて作ってるのよ。変だけど、みんながんでくれるから』
義母が誇らしげに語っていた、あの言葉。
全部、私の母が、腱鞘炎で腫れがったで作っていたのだ。義母は注文を取り、個百円や千円の代を回収し、所からの称賛をに浴びていた。そして実の母には円も払わず、材料費すら万円以も自腹を切らせていた。
利用されていたのだ。私の母親は、義母の見栄と遣い稼ぎのために、骨の髄までしゃぶり尽くされていた。
その、母が何かにい当たったように、エプロンのポケットから枚のを取りした。
「……じゃあ、歩美。これ、どうなるの?」
母のが刻みに震えている。差しされたのは、カラー印刷された域のイベントチラシだった。
『第14回 あけぼの区・のふれあい民交流会』『特別企画:藤本恵子さんの真作り幕の内弁当(限定100・予約)』
百。
「輔さんがね、今の夕方これを持ってきて……」母の声は、もはや泣き声にかった。
「『曜の朝までに、百個全部を詰め終えてほしい』って。じゃ絶対ににわないから、曜の夜から徹夜で伝いにくって言ってたの。だから私、今夜のうちにできるごしらえを全部やっておこうとって……」
百分。庭用の、しかないさなコンロで。歳の、首を痛めた齢女性が、たったで徹夜で作る量じゃない。そんなの、のやることじゃない。
その、私のコートのポケットので、スマホが鋭い着信音を鳴らし始めた。
ディスプレイに浮かびがった名は――。
『夫(輔)』
私は、激しいりで震える指を液晶画面に滑らせた。
通話ボタンを押し、に当てた瞬。
受話器の向こうから、何事もなかったかのような夫の軽な声が響いた。
「もしもし、歩美? おどこったんだよ。母さんがシャワーからがってきたのにリビングに誰もいなくて困ってるぞ。飯の片づけ、途で放りしてどこったんだ?」
責めるような、当たりの常を装った声音。私の胃の腑が、りでぐつぐつと煮えつ。
「……実にいるわ」
「は? なんでそんなとこに……」
夫の言葉がピタリと止まった。受話器越しに、息を呑む気配がはっきりと伝わってくる。
「お母さんのところよ。
今、台所にいる」
私は線を落とした。元には、個を超える黒い弁当箱。めかけた唐揚げの油の匂い。