"「娘に頼まれたから」深夜に30個の弁当を作る母、私は何も知らなかった" 第4話
そして、腫れがった首に湿布を巻き、怯えたように私を見つめる母の姿。
「歩美、お……なんで急に」
「あけぼの区の民交流会。百限定、藤本恵子の真作り幕の内弁当」
私はチラシの文字を、音ずつ噛みしめるように読みげた。受話器の向こうが、完全な沈黙に包まれる。
「……これ、何?」
「あ、いや、それは……」
「曜の朝までに百個詰め終えろってお母さんに言ったの、あなたよね? 私が業するから伝えって嘘をついて、半お母さんに何百個も弁当を作らせていたのは、あなたよね!?」
台所に私の号が響き渡り、母の肩がさくねた。夫は数秒激しく狼狽したあと、舌打ち交じりにで捲しててきた。
「おい、待てって! そこで待ってろ、今すぐくから変なこと言うなよ!」
方に通話が切られた。プツッという無質な切断音を聞きながら、私はスマホを握りしめた。爪がのひらにくい込み、鈍い痛みがる。
「歩美……もういいのよ」
母が々しく私の袖を引いた。
「輔さんも、悪気があってやったわけじゃないのかもしれないし……。私が引き受けたんだから、の分くらいは……」
「悪気がないわけないでしょう!」
私は振り返り、母の両をく包み込んだ。触れた母の指先は、氷のようにたかった。関節は赤く太く腫れがり、指の腹には傷の跡がいくつも残っている。
「これを見て、どうして悪気がないなんてえるの? お母さん、自分のを見てよ。こんなになるまでこき使われて、材料費も全部自腹で……それでもまだ、あのたちをかばうの!?」
母の目から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「だって……あんたが困るとって……。嫁の親がこんなことで騒ぎてたら、あんたが向こうので肩の狭いいをするんじゃないかって……」
どこまでも、自分のことより娘の世体を配している。その愚かなほどの無償のに、胸が引き裂かれそうだった。そしてその清らかなを、汚いで踏みにじり、と見栄に変えていた夫と義母への殺にいりが、私の全を支配していた。
分。実のに、乱暴なブレーキ音とともにがまった。
勢いよく玄関ドアがき、ドタドタと音を荒らげて夫が廊を駆けてくる。
「歩美!」
台所の引き戸が乱暴にけ放たれた。ネクタイを緩め、額に脂汗を浮かべた夫がっていた。
夫は並べられた量の弁当箱と、涙を浮かべる母、そして仁王ちする私の姿を界に収めると、わざとらしくきなため息をついた。
「……なんだよ、その物々しい雰囲気は。脅かすなよ」
「説して」
私は歩も引かず、え切った声で言った。
「私が弁当をやりたがってるって嘘をついて、お母さんに作らせていた理由を。
今すぐここで話しなさい」
夫はバツの悪そうに線を泳がせ、首筋をポリポリと掻いた。
「嘘っていうか……ちょっとした方便だよ」
「方便?」
「そうだよ! お義母さんだって、定退職してにいて暇だっただろ? 誰にも頼りにされない老なんて張りいがないじゃないか。母さんが域の婦会で『美しい作り弁当を頼めるところを探してる』って言うから、ちょうどいいとってさ。お義母さんのきがい作りのために、俺が気を利かせて渡しをしてやったんだよ」
吐き気がした。
ぬるい善の仮面を被りながら、平然との痛みを踏み躙るこの男の神経が、の底から理解できなかった。
「きがい作り? 毎朝に起きて、腱鞘炎でを真っ赤に腫らして、夜まで個も揚げ物を作ることがきがいだと言うの?」
「それは……ったより注文が増えちゃっただけで……」
「材料費の万円は?」
私がテーブルのにドン、と学ノートを叩きつけると、夫の顔がサッと変わった。
「お母さんがを削ってて替えていた材料費。円も返してないわよね? お義母さんは注文したたちから、個いくらでおを取ってたの?」
「それは……母さんが管理してるから、俺はらないよ」
「嘘をつきなさいよ!」
私は夫の胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。
「『歩美の母親の件はうまく片づけたよ(笑)』って、さっきお義母さんにLINE送ったでしょう! 何を片づけたの? どうして(笑)がつくの!? 答えなさいよ!」