"「娘に頼まれたから」深夜に30個の弁当を作る母、私は何も知らなかった" 第14話
「娘を応援したい、力になりたいっていう、親の純粋なを、あなたたちは嘲笑いながらに変えようとした。……のを殺すと、緒にきていけるわけがないでしょう」
輔は唇を震わせ、今度こそ完全に言葉を失った。
「さようなら」
私は度も振り返らず、駅へと向かう階段をりた。背にかかっていたい鉛のような塊が、のたいにさらわれて、ふっと軽くなっていくのが分かった。
そのの夕方。私は産のケーキをぶらげて、実を訪れた。
玄関をけると、懐かしい汁の匂いがふわっと漂ってきた。
「お母さん、ただいま」
「おかえり、歩美。寒かったでしょう」
台所から顔をした母は、エプロン姿で柔らかく微笑んでいた。の首には、もう湿布もサポーターも巻かれていなかった。病院のリハビリを終え、医師から「もう普通に事をして丈夫ですよ」と太鼓判を押されたばかりだった。
台所を覗き込む。
あの夜のような、の踏みもないプラスチックの弁当箱は、どこにもない。積まれた業務用の段ボールも、けたたましく回り続ける換気扇の油煙もない。
ピカピカに磨かれたステンレスの流し台。さなコンロので、コトコトと湯気をてている鍋がつ。今夜のおかずは、根と豚肉の煮物だった。
「歩美、婚届、してきたの?」
「うん。今さっき、全部終わったよ」
「そう。……お疲れ様。よく頑張ったわね」
母はを止めると、器棚からつの鉢を取りした。の、素朴な美濃焼の器。
「お弁当を何個も作っていたはね、がどうとか、誰がべるとか、全然考えられなくなってたの。ただを気にして、枠のに詰め込むだけの作業だった」
母はおたまをに取り、丁寧に煮物を盛り付けた。
「でもね、今は嬉しいのよ。歩美が『美しい』って言ってくれる顔をい浮かべながら、夕飯の買いしをして、根の皮を剥く。……料理って、本来はこういうものだったわね」
ちる湯気の向こうで、母の顔が穏やかに綻んでいる。
卓に並んだのは、ツヤツヤに炊きがったご飯と、お豆腐とわかめの噌汁。そして、じっくりとが染みた根の煮物。
たった分の、温かい夕餉。
「いただきます」
箸を伸ばし、根を頬張る。優しい汁の旨と、ほんのりとした甘みが、いっぱいに広がった。
「……すごく美しい、お母さん」
「よかった。あんたの好きな付け覚えるの、お母さん得だからね」
母は嬉しそうに目を細め、自分のお茶碗をにとった。
もう、誰かの見栄のためにすり減る必はない。誰かの嘘のために、痛みに耐えながら夜をかす必もない。
このさな台所は、母が自分自のためにち、本当に切なのためだけに腕を振るう所として、完全に戻ってきたのだ。
「お母さん」
「ん?」
「これからはね、お母さんが作りたいだけでいいからね。疲れたは、でに美しいものべにこう」
私が言うと、母は瞬驚いたように瞬きをして、それから声をてて笑った。
「そうね。たまにはあんたの奢りで、お寿司でも連れてってもらおうかしら」
「うん、いくらでもご馳するよ」
窓のには、いの夜空が広がっていた。え込むの夜の真んで、私たちのさな卓には、確かな温もりと、誰にも奪えない自由が満ちていた。