"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第11話
お義父さんの遺産だってあるし、毎分な額の遺族をもらっている。腰が自由になって暮らしが難しくなったなら、そのおを使って適切な施設に入るのが番自然でしょう? どうしてそれが『全部終わる』ことになるの?」
「施設なんて、に万も万もかかるんだぞ!」
夫は逃げを失い、唾をばしながら喚きてた。
「入居だって何百万、をすれば千万以かかるんだ! 母さんの貯がいくらあったって、何も入ってたら全部消えちまうだろ! あんなところにを吸い取られるなんて、ドブに捨てるようなもんだ!」
「……それが、何?」
「何って……!」
夫は言葉に詰まり、顔を真っ赤にした。言いたいけれど、言ってはいけない言葉が、喉元までかかっているのがわかる。その浅ましい表を見て、私はすべてを悟った。
「ああ、そう……そういうことね」
背筋に、氷のようなたさが広がっていく。
「お義母さんの遺産を、減らしたくないのね」
夫の呼吸が止まった。
「お義母さんの貯も、も、実のも、将来全部あなたと美智子さんが相続するつもりだから。施設に入って預貯を使い果たされたら、あなたたちが受け取れる遺産が減ってしまう。だから、お義母さんのには円もをつけさせず、私の無償労働で全部賄おうとしたのね」
「ち、違う! そんな浅ましいこと考えてない!」
「嘘をおっしゃい!」
私の鋭いに、夫は怯えたようにずさりした。
「計算が成りっているじゃない。私が正社員を辞めてパートになれば、世帯収入は万減るけれど、お義母さんの施設代の万は丸々浮く。実の資産はそのままつかずで残る。私のと尊厳を踏み台にして、あなたたちが将来にする遺産を守りたかった。……違いますか!?」
夫はをパクパクとかしたが、何の反論もてこなかった。額から流れる汗をの甲で拭い、ただ荒い息を繰り返している。
のを削って、自分たちの懐を守る。それが、夫と義母と義姉が結託した、美談の皮を被った醜悪な算盤の正体だった。
「……もういいわ」
私はたく言い捨て、寝へと向かった。
「お、待てよ! 真由美!」
ドアを閉め、内側から鍵をかけた。から夫がドアを叩く音が数回響いたが、やがて諦めたように音がざかっていった。
ベッドに腰をろし、暗ので井を見げる。涙はなかった。ただ、胸の奥に、研ぎ澄まされた刃物のような徹な決だけが残っていた。
翌の夕方、娘の音が旅から帰ってきた。
「ただいまー」
玄関でスニーカーを脱ぐ元気な声に、私は胸を撫でろした。リビングに入ってきた娘は、きなリュックサックをにろし、楽しそうに笑っていた。
「お母さん、これお産! 川越のお芋のお菓子!」
「ありがとう、音。楽しかった?」
「うん! すっごい寒かったけど、おみくじは吉だったよ」
娘の屈託のない笑顔を見ていると、昨までの沼のような悪が、い世界の来事のようにえた。この子のでだけは、あの醜い争いを見せたくなかった。
だが、夕を終え、娘が自分の部から戻ってきたとき、その表に微かな翳りがあることに気づいた。
には、学から配られた希望調査のプリントが握られている。
「……お母さん」
「ん? どうしたの?」
音はテーブルの向こうに座り、プリントの端を所なげに指先で擦った。の。そろそろ学学に向けた具体なを決めなければならない切な期だった。
「あのね……ちょっと聞きたいことがあって」
「何? 志望のこと?」
「ううん。そうじゃなくて……」
音は線を落とし、迷うように唇を噛んだ。そして、恐る恐るというように、私の目遣いに見つめてきた。
「お母さん、から仕事……パートに変えるの?」
臓が、ねた。
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられる。夫と義母が勝に決めたはずの嘘が、なぜ娘のに入っているのか。
「……どうして、そんなことをってるの?」
私の声がくなったのをじたのか、音は慌ててを振った。
「らないで! あのね、末に……おばあちゃんから私のスマホに話があったの」
「お義母さんから?」
「うん。『音ちゃん、元気?』って。でね、『からはお母さんもお仕事が暇になって、おにいるが増えるからね。