"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第12話
音ちゃんもなんだから、お母さんに甘えないで、のこと伝ってあげてね。お母さんはおばあちゃんの病院のお伝いもしなきゃいけないから』って……」
ので、ブツンと何かが切れる音がした。
義母は、私を追い詰めるために親戚へ嘘を吹き込んだだけではなかったのだ。私の娘にまで直接連絡を入れ、母親が仕事をセーブすることを既成事実として植え付けていた。なの娘に、「お母さんはおばあちゃんの世話で忙しくなるからしろ」と圧力をかけていたのだ。
なんて、卑劣な真似を。
「……音」
私は娘のに膝をつき、そのさなを両で包み込んだ。
「嘘よ。お母さん、仕事をパートに変えるつもりなんて、これっぽっちもないわ」
音の瞳が、驚きで見かれた。
「え……? でも、おばあちゃんは……」
「おばあちゃんとお父さんが、勝に言っているだけ。お母さんは、今の病院で懸命働いてきたの。自分の仕事に誇りを持っているし、これからも正社員として働き続けるわ。音が学にきたいなら、きたい学に全部かせてあげられるように、ちゃんとおを稼ぎたいの」
「お母さん……」
音の瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていった。
「よかった……」
娘は震える声でそう呟き、ぽろぽろと粒の涙をこぼした。
「音……?」
「私ね、ずっと怖かったの」
音は制の袖で涙を拭いながら、胸の内を吐きすように話し始めた。
「おばあちゃんから話が来るたび、お母さん、いつも辛そうだったから。お母さんが仕事のに病院の予約取ったり、休みのに買いしにったりして……夜、リビングでため息ついてるの、私ずっと見てたよ」
胸が、締め付けられるように痛んだ。子供には見せていないつもりだった。母親として、平気な顔をして笑っていたつもりだった。でも、娘は全部見ていたのだ。私が義母のために削り取られていく姿を、すぐ隣で見つめていたのだ。
「おばあちゃん、言ってたの。『音ちゃんももうきいんだから、お母さんのを煩わせちゃダメよ』って。まるで、私がいるからお母さんが変みたいに言われて……私、すごく嫌だった。私のせいで、お母さんが仕事を辞めさせられるんじゃないかって……」
「そんなことない!」
私は娘の体をく抱きしめた。
「音のせいなんかじゃ絶対にないわ。お母さんはね、音のお母さんでいられることが番幸せなの。誰かの犠牲になって自分の仕事を諦めるなんて、絶対にしない。だから、配しないで」
腕ので、娘の細い背がしゃくりげるように震えていた。
「うん……私、お母さんが働いてる姿、かっこいいとってたから。お母さんのなんだから、お母さんがやりたいようにやってほしい」
娘のその言が、私の胸の奥くに突き刺さった。
お母さんのなんだから。
そうだ。私のなのだ。誰の介護員でもなく、誰の遺産を守るための具でもない。私は、私自のでち、自分のをきる権利がある。
娘をこれ以、あのたちの醜いエゴに巻き込ませるわけにはいかない。守るべきものは、何つ曖昧にしてはいけない。
翌朝、私は勤すると、自分のデスクのパソコンに向かった。
医療法の総務課で管理されている、過の勤怠データ。私は休暇の取得履歴と、その申請理由のメモをすべて引きした。会社のシステムには、取得理由として「族の通院付き添い(義母)」「義母宅の突発対応」と几帳面に記録してあった。
印刷されたをめくる。
の計取得数、。そのうち、義母の通院付き添い、検査のちい、急な買いしのために使用した数は――。
の分の以が、義母のために消えていた。
帳をき、過のスケジュール帳と突きわせる。義母が「どうしても今かなきゃいけない」と儘を言って、私が同僚にをげてシフトを代わってもらった回数、回以。総病院での待ちに費やした、数百。
これだけのを、私は無償で差ししてきたのだ。
そして、その横に、夫と義姉の実績をきしてみた。
夫、修。過の病院付き添い実績――回(いずれも曜、を運転したのみ)。