みかん小説
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"白いメットと二十二年の嘘" 第2話

真奈美も昔はろに乗せてもらい、のやへかけたことがあった。だが、それももう以の話だ。

真奈美は茶のカップを両で包み込んだ。温かいが指先から伝わってくる。彼女は線をげず、テーブルの目をじっと見つめた。

「うん……かなくていいかな」

静かに、だがはっきりとした声だった。

「あ? なんでだよ。葉のビーナスライン、最だぞ。お、温泉好きだろ。昼飯に旨い蕎麦も見つけたしさ」

真奈美はゆっくりと顔をげた。浩之の、何の曇りもない無邪気な笑顔が界に入る。自分の提案が断られるはずがないと信じ切っている、傲な男の笑顔。

「くなら又、紗理奈さん誘ってあげたら? せっかくメットまで買ったんだし」

内の喧騒が、ふっとのいたような気がした。隣の席の子供がフライドポテトを落として母親に叱られている声も、BGMの軽なジャズも、すべてがガラス枚隔てた向こう側の来事のように真奈美のには届かなかった。

浩之の笑顔が、まるで氷柱が急速に凍りつくように直した。

に持っていたポテトが指先から滑り落ち、トレイのに乾いた音をてた。

「……! は……? 誰?」

浩之の喉から絞りされた声は、掠れて裏返っていた。瞳が激しくに揺れ、真奈美の線から逃れるように宙を彷徨う。

真奈美は唇の端をわずかに緩め、困ったような、れむような笑みを浮かべてみせた。

「あ……ごめん。もう終わったんかな」

「……何それ」

浩之の顔から急速に血の気が引いていくのが分かった。焼けした肌が気に変し、額にじっとりと脂汗が浮きがる。

「何言ってんだよ、お。紗理奈って……誰だよ、それ」

真奈美はそれ以、何も言わなかった。半分残っていたテリヤキチキンバーガーを丁寧にで包み直し、茶を最のまでみ干すと、子の背にかけていたバッグを肩にかけた。

「もう帰ろう」

ちがった真奈美の背を、浩之は信じられないものを見るような目で見げていた。彼が半分以残したハンバーガーは、え固まったソースを滲ませたまま、トレイのに放置された。

駐へ向かう数分、浩之は真奈美の歩ろを、音を忍ばせるようにしてついてきた。

ファミリーカーの助席に乗り込むと、真奈美はシートベルトをカチリと締め、窓のに線を向けた。浩之は運転席のドアを乱暴に閉め、エンジンをかけたが、すぐにギアを入れようとはしなかった。内にはエアコンの微かな送音だけが響いている。

沈黙が、たい鉛のように座席のに横たわっていた。

浩之は両でハンドルを固く握りしめ、方のい壁を見つめていた。

その指の関節がく浮きがっている。

「……あのさ」

数分が経過した頃、浩之がく掠れた声をした。

「何か勘違いしてない?」

真奈美は窓ガラスに映る夫の横顔を眺めた。代半になり、し弛んできた顎のライン。かつては頼もしくえたその横顔が、今はただひどく滑稽で、れなものに見えた。

「うん、勘違いだったらいいね……」

真奈美の声には、りも、取り乱した様子もなかった。まるで気の崩れを告げるラジオのアナウンサーのように淡々としていた。

「今までのあなたの浮気、全然私の勘違いなら本当に良かった」

浩之の肩がビクッとねがった。彼は首だけを真奈美の方へ巡らせようとしたが、その途で線を引に正面へ戻した。

「どういうこと?」

「……婚しよう」

吐きされた言葉のみに、浩之の息が止まる。

「ううん、違う……婚したいです」

丁寧に言い直されたその言は、冗談や脅しなどではない、決定な断絶の宣言だった。

浩之の顔は完全に固まっていた。元を固く引き結び、瞬きすら忘れたかのように見かれた両目は、フロントガラスの向こうの何もない空を凝している。彼は度と真奈美の顔を見ようとはしなかった。

カチャリとシフトレバーをドライブに入れ、アクセルを踏み込む。は滑るように国へと流したが、までの分、のに交わされた言葉は言もなかった。

ただ、カーラジオから流れる軽なポップスだけが、凍りついた密を満たしていた。

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