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"白いメットと二十二年の嘘" 第8話

嵐がったのリビングには、頬を腫らし、にいつくばったまま呆然とする浩之と、凛としてち尽くす真奈美だけが残されていた。

数、真奈美は都内の落ち着いたホテルのラウンジにいた。

窓のにはの柔らかな陽が注ぎ、優雅なピアノの旋律が流れている。

真奈美の向かいには、の若い女性が座っていた。

鈴紗理奈。

歳。浩之の会社の取引先である建材メーカーの営業事務を勤める女性だった。

ネットの写真で見るよりもずっと華奢で、黒髪をろで束ね、清楚な印象を与える顔ちをしていた。ただ、その表は極度に緊張し、膝ので握りしめた指先は刻みに震えていた。

「……奥様、ですね」

紗理奈が掠れた声で言った。

「ええ。お忙しいところ、おを取らせてごめんなさいね」

真奈美は穏やかな調で言った。鳴りつけるつもりも、を浴びせかけるつもりも毛なかった。そんな品な真似をする価値すら、この関係にはないとっていた。

「弁護士の先から、通が届いたといますけれど」

「……はい」

紗理奈は青ざめた顔で頷いた。

「慰謝料の請求額、百万円。私、そんな……すぐには払えません……」

「払えない、ですか。浩之さんからは毎万円のお遣いをもらっていたのでしょう? ヘルメットも買ってもらい、野の級ロッジにも連れてってもらって」

「それは……!」

紗理奈は顔をげ、すがるような目で真奈美を見つめた。

「私、騙されていたんです! 浩之さん……さんは、『妻とはもう以も完全な庭内別居で、寝も別々だし、会話も切ない』って……! 『息子の学学をに婚することでしていて、もうすぐ公正証を作る段階だ』って言われていたんです!」

真奈美はのでさくため息をついた。

やはりそうか。倫をする男が吐く嘘のテンプレそのものだ。

「信じていたのね」

「はい……! の指輪も、さんが『これが俺たちの婚約の証だ』って買ってくれたんです。婚が成したら、正式に入籍しようって……私、本気だったんです! 奥様を苦しめるつもりなんてなくて、もう終わっているご夫婦なんだとばかりっていて……!」

紗理奈のきな瞳から、粒の涙がポロポロと零れ落ちた。

真奈美はナプキンを差ししながら、静かに告げた。

「紗理奈さん。あなたが彼に何を言われていたとしても、法な事実は変わりません。私たちは普通に同じ根ので暮らし、私が彼の事を作り、洗濯をし、活を共にしていました。庭内別居なんて事実はありませんでした」

「で、でも……」

「それにね、あなた、彼が倫をしたのはあなたが初めてだとってる?」

紗理奈が涙で濡れた顔をげた。

「え……?」

「彼、息子の陸が学のにも、会社の派遣社員の子と浮気したのよ。

その次の学受験のも、フットサル仲の女性とね。私にバレるたびに、彼はリビングで座して泣いて謝ったわ。『魔が差した、度としない、おが番事だ』って」

紗理奈の瞳に、激しい揺がった。

「そんな……さんは、浮気なんてまれて初めてだし、こんなにを本気で好きになったのはで初めてだって……」

「そう言うに決まっているじゃない。男が若い女の子を説くの常套句よ」

真奈美はクリアファイルから、野のツーリングで撮された浩之の笑顔の写真を枚取りし、テーブルのに置いた。

「あのはね、誰のことも本気でしてなんていないのよ。私をしていたわけでも、あなたをしていたわけでもない。あのがしているのはただ、『自分を男として崇めてくれる都のいい女に囲まれている、かっこいい自分』だけなの」

紗理奈はその写真をい入るように見つめ、やがて両で顔を覆って激しく泣き崩れた。

自分の信じていた「の男性の甘い恋」が、ただの自己のい男の使い古されたに過ぎなかったことをったのだ。その絶望と羞恥は、歳の女性にとって耐え難いものだろう。

「慰謝料については」

真奈美は厳に話を続けた。

「弁護士を通じて減額の交渉には応じます。分割払いでも構いません。

ただし、度と浩之さんに接触しないこと、会社を辞めること、そしてこの事実を浩之さんの会社の層部には私から告発しない代わり、あなた自ので彼との関係を完全に断ち切ること。

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