"「寝かせた金」と呼ばれた一千万円" 第8話
胃の底が、りでくなった。
夫と亮介は、私のを盗もうとしていただけではない。
この真面目な義妹のささやかな蓄えまで巻きげ、活の基盤を奪いっていたのだ。
「真理さん、落ち着いて聞いて」
私はを乗りし、真理さんの目をまっすぐに見据えた。
「舗の契約や材の発注に、あなたの署名や押印はある?」
真理さんはハッとしたように目を見張り、記憶を繰り寄せるようにを抱えた。
「け、契約は……基本には亮介の名義です。でも、内装事の契約の、『のため配偶者のサインも』って言われて、私が類に名をかされた記憶が……」
「連帯保証欄じゃないでしょうね?」
私の問いに、真理さんは息を止めた。
「わ、わからない……ただの連絡先だって言われて……」
「今すぐ確認しなさい」
私の声に、容赦のない厳しさが混ざる。
「もしあなたが連帯保証になっていたら、亮介さんが破綻した、その負債はすべてあなた個に請求されるわ。パートを辞めたあなたに、数百万、数千万の借が払える?」
真理さんの体が、目に見えてガタガタと震え始めた。
恐怖で瞳孔がき、呼吸が浅くなっている。
ここでれんで慰めるのは、優しさではない。
現実の酷さを突きつけ、戦う覚悟を持たせることだけが、このを救う唯の段だ。
「泣いているじゃないわ、真理さん。
あなた自を守りなさい」
私は鞄から名刺入れを取りし、政士の名刺を差しした。
「私が相談している先よ。契約の確認と、万がのの債務理、によっては婚の続きも含めて、すぐに相談できるように配してあげる。でも、そのに――あなた自が、事実を確かめなきゃいけない」
真理さんは震えるで名刺を受け取り、胸に押し当てた。
「織さん……どうして、私なんかにここまで……」
「あなたを助けたいわけじゃないわ」
私は徹に言った。
「私のをで踏みにじろうとしたあの男たちに、きっちり落としをつけさせたいだけよ。そのためなら、あなたと利害が致するはずよ」
真理さんは涙をの甲で乱暴に拭い、唇を噛み締めた。
その瞳に、怯えとは違う、暗く鋭いが宿り始めるのを私は見逃さなかった。
「……織さん」
真理さんはバッグのにを突っ込み、つ折りにされた茶封筒を取りした。
「これ……昨の夜、亮介のビジネスバッグから見つけたんです。兄貴……健さんと亮介が、コソコソ隠れて話しているのを見て、胸騒ぎがして抜き取ったもので……」
机のに置かれた茶封筒。
私は無言でそれを受け取り、封をけた。
からてきたのは、枚の契約だった。
公な関を通したものではない。
パソコンで自作された、私な。
表題には、こう印字されていた。
『役員就任内諾 兼 経営参画に関する』
甲:亮介
乙:健
私の線が、面を滑る。
『第条(役職) 乙は、甲が設する舗運営会社において、専務取締役(部顧問)に就任するものとする。』
『第条(報酬) 甲は乙に対し、経営参画の対価として、舗業より額万円の役員報酬を支払うものとする。売の増減に関わらず、本報酬は優先して支払われるものとする。』
『第条(資調達の対価) 乙は、本事業に必な初期資として千万円の拠(義姉・織名義の特財産の拠または保証提供を含む)を責任を持って完させることとし、その履をもって記役職および報酬を確定なものとする。』
喉の奥で、カチリと音がした。
りではない。
憎しみですらない。
胸の奥を突き抜けていったのは、絶対な零度の確信だった。
夫が、なぜあれほどまでに弟の業に必だったのか。
なぜ「男の責任」「族の絆」などという美辞麗句を並べて、私の千百万を奪おうとしたのか。
すべて、この屑のためだったのだ。
夫は弟を応援したかったのではない。
私の婚貯蓄を差しすことで、弟のに「専務」の子を買い取り、妻ので自分の将来のり先と、々万の遣いを確保しようとしていたのだ。
売の増減に関わらず、優先して支払われる額万。
が傾こうが、弟が借まみれになろうが、夫だけは全圏で妻のを甘のように啜り続ける算段。