"「寝かせた金」と呼ばれた一千万円" 第16話
「嫌だ……押さない……! 押さなければ、婚は成しないだろ!」
「押さないなら、裁判を起こすだけよ」
私は淡々と言い放った。
「への私文偽造申告、あなたの『役員就任内諾』、そして会社のコンプライアンス窓への報提供。法定婚事由の『婚姻を継続し難いな事由』を証する証拠は、すでに弁護士の元にすべて揃っているわ。裁判になれば、あなたの会社でのは完全に消滅する。退職すら差し押さえの対象にするわ」
夫の顔から、完全に表が消え失せた。
逃げは、最初から本も残されていなかったのだ。
私というが、、数字の帳尻をわせ、規則と法を守り続けてきたプロであることを、この男は完全に忘れていた。
夫のが、ポケットを探った。
取りされた黒い印鑑ケース。
震える指先で朱肉をつけ、夫は『婚届』の夫欄の横に、力なく印を押した。
のに、赤い丸が滲む。
の終わりを告げる、あまりにもあっけない捺印。
「……これで、満かよ」
夫が掠れた声で呟いた。
「ええ。とても」
私は夫から類を奪い取るように引き寄せると、そのまま戸籍窓のカウンターへ向かった。
発券から引いた番号は、『番』。
窓の職員が際よく類を確認し、私の分証と照する。
「では、こちらで受理いたします。しい戸籍の謄本が必なは、週にご請求ください」
械な確認。
印鑑が押され、類が奥へと引き込まれていく。
の結婚活が、わずか分の続きで、屑のように法な効力を失った。
区役所をると、夫はロビーの子に崩れ落ちたまま、けなくなっていた。
声をかける気にもならなかった。
あの男のこれからのに、私が関与する筋いはミリもない。
にると、ポケットのでスマートフォンが震えた。
義母の久美子だった。
拒絶リストを掻い潜り、見らぬ固定話の番号からかけてきたらしい。
私は迷わず、通話ボタンを押した。
『もしもし! 織さん!? あんた、健に何をしたのよ!』
を塞ぎたくなるような、ヒステリックな叫び声。
『亮介のが違約で変なことになってるのよ! 親戚から話がかかってきて、私の顔はまみれよ! あんた、今すぐ実に来なさい! 族で話しって、責任を取りなさいよ!』
私は、青く広がる空を見げた。
ひとつない、完璧なの空。
「久美子さん」
私は徹に、事務な声で告げた。
「先ほど、健さんとの婚届を提し、受理されました」
話の向こうで、ヒッと息を呑む音がした。
「私ととのには、法な縁は切なくなりました。私はもう、のではありません」
『な……っ、婚……!? 嘘でしょ、あんた、健を見捨てる気なの!?』
「警告しておきます」
私は義母の言葉を、氷の刃で断ち切った。
「今、私の自宅、勤務先への接触、または話やによる切の連絡を禁止します。これ以つきまとうようであれば、ただちに警察へ被害届を提し、裁判所へ接禁止命令を申してます」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ織さん! 族でしょう、族なのに――』
「の問題は、あなたたちのだけで解決してください」
私はそれだけを言い放ち、通話を切った。
そして、その番号を即座にブロックリストへと放り込んだ。
もう、度と私の世界に入り込ませることはない。
スマートフォンをバッグの奥底へ滑り込ませる。
私の元には、守り抜いた千百万円の預がある。
私の名義の部がある。
そして、誰にも脅かされることのない、私のがある。
が吹き抜け、私の背を押した。
私は度も振り返ることなく、駅へ向かうの波のへ、確かな取りで歩きした。