"サンダル履きの妻を、夫が売る日" 第3話
引き戸が閉まる直、女が主に向かって「お釣りはいらないわ」と銭を投げす音が聞こえた。
主が困惑した顔で、その貨と私を交互に見つめている。
私は伸びきったうどんを、静かにへ運んだ。
汁のは、いつも通り完璧だった。
……なるほど。
義母、夫、理、そして岸本部。
まだ内定も正式にていないはずの部のが、なぜここまで増し、私の担当顧客の引き渡しを求してくるのか。
単なる「親切な縁故採用」であるはずがない。
りで鳴りつけるのは秒でできる。
自分がこの会社の物流コーディネートの全権を握る主任であり、営業利益の割を支える顧客の窓をに担っている事実を突きつければ、この女は即座に青ざめただろう。
だが、それではりない。
なぜ理なのか。
なぜ、私の顧客なのか。
その裏で、夫と義母が何を企んでいるのか。
その全容をのに晒し、言い逃れのできない記録として堀を埋め尽くすまで、私は正体をかす気など毛なかった。
そのの夜。
予通り、固定話の受話器が甲いベルを鳴らした。
ディスプレイには「実・藤原幸子」の文字。
受話器を取る。
「はい、藤原です」
『真紀さん? 健太から聞いたわよ』
受話器越しでもわかる、義母特の、相を値踏みしながらマウントを取るねっとりとした声。
『理ちゃんに会ったんですってね。どうだった? 京仕込みの洗練されたお嬢さんでしょう。うちの古いりいの娘さんなんだけどね、あんな優秀なが真紀さんの会社に来てくれるなんて、願ってもないことよ』
「……ええ。お昼にお会いしました」
『あの子ね、向こうできなプロジェクトをいくつもかしてきたんですって。真紀さんみたいに、方のをてずっと同じ会社で帳簿をつけてるようなとは、器が違うのよ。分かるでしょう?』
相変わらずの物言いだった。
結婚して、このは度として私の仕事を正当に評価したことがない。
子どもがいないことをで親戚に愚痴り、私が役職に就いたも「女が気にデスクワークなんて」とで笑った。
『だからね、真紀さん。理ちゃんが入社したら、あなたが今持っているきな取引先、いくつか彼女に譲ってあげなさい』
息が止まりそうになるのを、指先に力を込めて抑えた。
「……譲る、とは?」
『言葉の通りのよ。きなスーパーのチェーンとか、ギフト用の仕入れルートとか、あるでしょう? あなたももうなんだから、若いにを持たせてあげるのが者の務めよ。理ちゃんが実績を作れば、会社でのあなたの評判もがるんだから。これはね、あなたをってのアドバイスよ』
暗ので、私の考は急速にえ固まっていく。
義母は、品流通の仕組みを何つらない。
契約とは会社と会社ので結ばれるものであり、担当個の私物ではない。
ましてや「に譲る」などという発が、普通のビジネスで通用するはずがない。
それなのに、なぜそこまでピンポイントで「スーパー」と「ギフト用の仕入れルート」を指定してくるのか。
私は受話器を握り直し、の削ぎ落とされたい声で問いかけた。
「お義母さん。つだけ確認させてください」
『何よ、改まって』
「そのお話は、私の会社が正式に決定した業務命令ですか? それとも、お義母さんの個なご望ですか?」
しん、と。
受話器の向こうの空気が、凍りついたように静まり返った。
『……な、何よその言い方は!』
数秒の沈黙の、受話器から鼓膜を破らんばかりの声が返ってきた。
『親が善でアドバイスしてあげてるのに、業務命令だの何だのって! これだからげのない女は困るのよ! 健太がで恥をかかないように、私がわざわざ顔をててやってるんじゃないの!』
「会社のことですので、適切な社内規定と続きに則って判断いたします。失礼します」
『ちょっと真紀さん! まだ話は――』
ガチャリと、静かに受話器を置いた。
激しい悸を、たい呼吸で押し殺す。
リビングのソファーでは、呂がりの夫がビール缶を片にテレビのバラエティ番組を見て笑っていた。
私が受話器を置いた音に、ちらりと線を寄越す。