"サンダル履きの妻を、夫が売る日" 第19話
私の会社の取引からパーセントの裏を掠め取ろうとした」
私は歩、夫へ詰め寄った。
夫は私の気迫に圧され、ずさりしてソファーの角に腰を打した。
「痛っ……真紀、だが現実に損害はてないじゃないか! 未遂だろ!? 社内でおが止めてくれたんだから、それでいいじゃないか! 夫婦ののことだろ、なんでそんなのような目で見るんだよ!」
「損害がていない?」
私はバッグから、弁護士が作成した受任通と婚協議の控えを取りし、夫の胸元へ叩きつけた。
束がバサリと夫の膝のに散らばる。
「読破なさい。あなたの犯した罪の代償よ」
夫の線が、表の文字に吸い寄せられた。
『婚協議』
『慰謝料請求』
『弁護士法……』
「な……婚……? 本気なのか……? たかが、たかが仕事のき違いで、の結婚活を捨てる気か!?」
夫が叫んだ。
その声は裏返り、恐怖で震えていた。
「捨てる? 捨てたのはあなたよ、健太」
私は淡に言い放った。
「私の仕事を番軽く見て、番馬鹿にしていたのは、世の誰でもない。夫であるあなただったわ」
夫の目が泳ぐ。
「『方のしがない事務職』『臭い現の雑用』『歳を取ったんだから若い女に席を譲れ』。
そうやって私のを嘲笑い、無価値だと見しながら――
その無価値なはずの私の仕事に番群がり、番甘い汁を吸おうとしていたのも、あなたよ」
夫の唇が、刻みに震え始めた。
言葉がてこない。
言い訳の余など、最初から文字もしないのだ。
「、私はあなたを支えてきたつもりだった。でも違った。私はただ、見栄と怠惰で膨れがった寄虫を、自分の血肉で養っていただけだった」
「真紀……! すまない、俺が悪かった! やり直そう、頼むから! 俺にはおが必なんだ! おがいなくなったら、俺はどうやって暮らせばいいんだよ!?」
夫がに膝をつき、私のスラックスの裾を掴もうと縋り付いてきた。
その姿には、普段振りかざしていたの主としてのプライドも、商会議所で威張り散らしていた虚勢も、欠片ほども残っていなかった。
ただの、自する術を持たないれな抜け殻。
私はそのを、首を引いて静かに振り払った。
「弁護士からの連絡に、週以内に返答なさい。応じないは、の朝に、あなたの勤務先の事コンプライアンスへ、本の全データを直接送付します」
夫の顔が、絶望で完全に凍りついた。
勤務先への通報。
それは、この男の社会命の終わりをしていた。
「それから――お義母さんのところへってあげたらどう? 今頃、変なことになっているはずよ」
「……え?」
「料亭まつもと。親戚同を集めたお祝いの席。
支払いの族カードが止まって、今頃どうなっているかしらね」
私がたく告げた瞬、リビングの固定話が、狂ったような音をてて鳴り響いた。
ディスプレイに表示された文字は『母・幸子』。
鳴り止まないベルの音。
夫は受話器を見つめたまま、ガタガタと歯を鳴らして震えていた。
私は振り返ることなく、寝からあらかじめまとめてあったスーツケースをつ引いて、玄関へと向かった。
背で、夫の泣き叫ぶような鳴と、受話器から漏れす義母の切り声がなりっていたが、私のにはただの障りな雑音にしか聞こえなかった。
い鉄の扉をけ、へる。
カチャリと鍵を閉めた瞬、の悪の幕が、完全にりた。
そのの崩壊は、目を見張るほどの速度でんだ。
料亭『まつもと』での修羅は、親戚筋ので瞬くに伝説となった。
豪勢な会席料理と価な酒を散々みいした挙句、会計に義母が差ししたクレジットカードはすべて使用能。
現の持ちわせもなく、員から警察を呼ぶと詰め寄られた義母は、集まった親戚たちに向かって「とりあえずて替えてちょうだい!」と喚き散らしたという。
事をった親族同は激した。
『嫁の会社の取引を勝に自して親戚を呼びつけておいて、最は寸借詐欺か』
『フジワラフーズの経営が危ないからって、内を巻き込むな』
親戚たちは々に義母を罵倒し、各自の代だけを置いて蜘蛛の子を散らすようにっていった。