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"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第2話

庄兵は誰よりも甥を配しているように振るい、病に伏せる源を甲斐甲斐しく世話するにい叔父を演じていた。

「これ、おたち。甥があのように伏せっているというのに、私がどうしてをのけることができようか。本の汰は私が引き受けるゆえ、おたちは若旦の病だけに専するがよい」

庄兵はそう言って、奉公への指図から米蔵のけ閉めに至るまで、何から何まで自分のでった。

「叔父様があれほどに世話を焼いてくださるのだから、若旦もお幸せなことだ」

周囲の者たちは庄兵を素らしい内だと称賛し、その腹の底がどれほど真っ黒であるかは誰もらなかった。

ただ1、60歳を超えた老奉公の宇兵だけは、その姿を見るたびに背筋が凍るいがしていた。源が赤ん坊の頃からこの敷に仕えてきた忠義者である。

宇兵は、庄兵が蔵の鍵をいじくるつきや奥座敷を窺う目つきを見るにつけ、どうしても腑に落ちないものをじていた。しかし、老いて力のない1の奉公に何が言えるはずもなく、ただを閉ざして源の傍らを守るばかりだった。

この敷にはくの奉公がいたが、そのに、お染という18歳の女がいた。台所の雑用をに引き受ける働きの娘である。

の粗末な綿の着物に、あちこち継ぎの当たった麻の掛けを締めていた。いつも綿の拭いでを覆い、常に面へ目を伏せて歩いていた。

が聞こえないため周囲の音がわからず、をいて言葉を発することもできない、敷で最も卑しい娘だと言われていた。

「あののきけない娘は、こき使うにはちょうどいい。どんな仕事を言いつけても文句1つ言わないからな」

のお咲婆さんがそう言って舌を巻くと、の者も頷いた。

「それもそうだ。が聞こえないのだから叱られてもわからぬし、がきけないのだからに告げをする配もない」

誰もその女にを留める者はおらず、ただ台所の隅にいるのかいないのかわからないようなだった。

しかし、拭いのから覗くお染の瞳は、の澄み渡った空のように清らかだった。を垂れたままであっても、敷の隅々までを見渡すくはっきりとした差しを持っていたのである。

そんなある、この庄の敷で源の婚礼が決まった。

もともと源には、隣町の格式い柄の娘である、お代という許嫁がいた。親たちがまだお腹に子がいる頃から交わしていた約束である。

源が寝込んでしまったため、んでしまうにせめて添い遂げさせてやろうという話が持ちがったのだ。

「本の跡取りが跡継ぎも残さずにあの状態では、急いで祝言だけでも挙げねばなるまい」

親族の老たちが集まってを揃えると、庄兵は誰よりも先にってこの婚礼を押しめた。

だが、庄兵が急ぐのにはもう1つ、れぬ惑が隠されていた。源がくなった、そのの責任をすりつけるための代わりの形が必だったのだ。

薬を最もでませる妻こそ、その役目にうってつけだった。

「おお、まさにその通り。くを固めさせてやりましょう」

庄兵は慈い顔の裏で、険な笑みを噛み殺していた。

やがて祝言のがやってきた。敷の庭には婚礼の筵が敷かれ、祝いの膳がしつらえられた。

にかけた婿の婚礼とあって、お祝いらしい華やかな賑わいはなかった。々の顔には様に暗いが差し、話し声もく抑えられていた。

婿である源は、抱きかかえられてようやく庭に姿を現した。派な婚礼の装をまとってはいたものの、血の気のない青い顔で頬は削げ落ち、支えていた宇兵はしきりにを震わせていた。

ところが、いくらが流れても肝の嫁の列はも形も見えなかった。々がざわつき始め、表のへ様子を見にらせた奉公が、しばらくして真っ青な顔で戻ってきた。

「嫁が、嫁が逃げしたとのことにございます」

庭がひっくり返るような騒ぎになった。

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