"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第3話
「なんだと、嫁が逃げしただと。それはどういうことだ」
「夜けに荷物をまとめて逃げったそうです。にかけた男に嫁いで、若くして未になるのはごめんだと」
蓋をけてみれば、お代は当の夜けに姿を消していた。しつらえられた祝いの席ので嫁が逃げしたのだから、これ以の面子潰しはなかった。
「世にこんな恥さらしがあるか」
親族の面々は顔を真っ赤にして憤った。所に噂が広まれば庄の体面はに落ちるため、々はどうしていいかわからずおろおろするばかりだった。
その、庄兵ががを得たりとばかりに急ぎみた。
「このまま祝言を止にしては、がの末代までの恥となる。嫁の代わりに座らせる娘を連れて参れ。どうせ婿があの状態なのだ、誰を相にしようが構うことはあるまい」
呆れた物言いだったが、庄兵ののではすでに1つの計算が成りっていた。どうせならがきけず文字も読めない女がいい。
々甥がんでその罪をなすりつける、自分ので弁すらできない操り形なら、これ以都の良い者はいなかった。庄兵の線が台所の方へと向けられた。
「あそこにいる、あののきけない娘はどうだ。も聞こえず何もわからぬのだから、腐れもあるまい」
庄兵がお染を指差すと、々の線が斉に集まった。
お染は台所の敷居のところで、何が起きているのかもわからぬ様子で佇んでいた。すぐに奉公たちが駆け寄り、お染を庭の真んへと引きずりしてよろめかせた。
まさにその、に伏していた源がゆっくりとをげた。震えるを持ちげて引きずりされたお染を指差し、乾いた唇をいてはっきりと告げた。
「あの女を連れて参れ。私の祝言は、あの娘と挙げる」
庭がを浴びせられたかのように静まり返った。庄兵が目をつけたその女を、にかけていた源自も自分ので指差したのである。
庄兵はので哉を叫んだ。己のであの女を選ぶとは、これで事がより容易になったといながら、表向きはわざとらしく引き止める素振りを見せた。
「若旦、どうしてそのようなことを。あの子は卑しき台所働きに過ぎませぬ。どうして本の奥方に据えることができましょうや」
「叔父様、私の伴侶は私が選びます。あの子でなくてはなりませぬ」
源の声は細かったが、芯が通っていた。源自も自分のの全てを理解していたわけではないが、を目にした目に、を垂れたその女の決して揺らぐことのないい佇まいがび込んできたのだ。
こうして奇妙な祝言が執りわれた。お染は押しされるようにして源と向かいい、何が何だかわからないという顔つきで々度の盃を交わした。
婚礼の装を着た源が盃を受けようとしてよろめくと、宇兵が慌てて支えた。見物していた々は舌打ちをして囁きった。
「これが何の祝言だというのだ。婿はにかけており、嫁はのきけない女ときた。3ヶと持つまいよ。婿がそのにねば、あの娘はたちまち未か」
誰もこの婚礼を本物だとはわず、庄の体面を保つための形ばかりの儀式に過ぎないと考えていた。
ところが、々度の盃を交わしていたお染の瞳が、その瞬く揺れいた。を垂れたまま源の血の気のない顔をしかと見つめ、あの方の病は決してただの病ではないと破していたのだ。
諺に、ではなくと目が真実を語るものだと言う。この庄で最も卑しく物言わぬ台所働きの女が、実は敷の何を最も克に聞き、見届けていたのか、の者たちは誰1としてる由もなかった。
祝言が終わり、お染は若旦の妻として奥の母へと入った。
その夜、お染は母の部に1で静かに座っていた。灯の淡いの、病に伏せる夫が苦しげに息を荒らげながら横たわっている。
お染はその傍らにそっと寄り添い、物事の理を推し量るような聡な差しで夫の顔を覗き込んだ。
灯のが瞬く夜更け、源はい眠りのにあり、荒い呼吸の音だけが部に響いていた。