"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第7話
ところが、このばしい変化を面くわない者が1いた。欲な叔父の庄兵である。
源の病状が好転したというらせをにした庄兵は、りと焦燥で顔を歪め、すぐさま権蔵を目のつかない部へと呼びして激しく問い詰めた。
「これは体どういうことだ。貴様、本当に1も欠かさずあの薬をませておるのだろうな」
「は、旦様、1とて怠っておりませぬ。こので直接部まで運んでおります」
「ならばなぜ甥が息を吹き返すのだ。毒を盛り続けられているが、逆に元気になるなどということがあってたまるか」
「へえ、それが私にも何が何やらさっぱりわからぬのでございます。確かに薬にはを混ぜておりますのに」
権蔵はの潔を証せんばかりに胸を叩いた。自分が毒入りの薬を届け、あの女が夫にませるのを見届けていたため、お染が裏で薬をすり替えているなどとは微も気づいていなかったのだ。
庄兵の細いがさらに鋭く険しくなった。
「あの唖の女、本当に何もらぬ形なのだな」
「がくて何も聞こえず、言葉1つ発せぬうつけにございます。あのようないに何がわかるとおっしゃるのです」
権蔵は笑いばすようにを振ったが、庄兵は猜疑を捨てきれず、2つの策を同に講じることにした。
「薬の量を増やせ。さらに毒性をめ、今度こそ確実に仕留めるのだ。そしてあの女のことも1度試してみる必がある。本当に何も聞こえぬ、何もわからぬうつけなのかどうかをな」
もしあの女が何かを察していているのであれば、決してかしてはおかない構えだった。
その夜、お染は権蔵が持ってきた薬の器から漂う匂いと液面の濁りが、以よりらかに濃くなっていることに気づいた。庄兵が源の回復にづき、毒の量を増やした証拠だった。
翌の昼がり、庄兵が慈い叔父の仮面を被り、親しげな顔で母の部へと入ってきた。
源は布団のにを横たえており、お染は部の片隅で静かにを垂れて控えていた。
「それにしても、あの娘は若旦の病を実によくこなしているようだ。なことだな」
庄兵は々しい世話をにしながら源の枕元へ腰をろしたが、その線は片もお染の挙かられなかった。もし言葉にわずかでも反応すれば、が聞こえている決定な証拠となる。
しかし、お染は端の蔵のごとくく首を垂れ、ぴくりともかなかった。すると庄兵はさらに1歩踏み込み、お染のすぐ背からが落ちたかのような声で名を呼んだ。
「これ、お染!」
鼓膜を裂くような号で、並のであれば驚きのあまり臓をねがらせてしまうほどの衝撃だったが、お染は微だにしなかった。
だが、庄兵はそう簡単に引きがるような甘い男ではなかった。すかさず袂から文銭を1枚取りすと、お染のすぐ背の畳のへ密かに落とした。
畳に触れた文銭が、ちりんと澄んだ属音を響かせた。卑しい分の台所働きであれば、すぐろに落ちた銭の音を聞き流せるはずがなく、反射に振り返るか肩を震わせるはずだった。
庄兵はお染のろ姿を猛禽のような目で凝し、皮膚の片のきさえも見逃さぬ構えで張り詰めた沈黙を見守った。
お染は全の神経を極限まで研ぎ澄ませていた。文銭の落ちる音は鮮にに届いていたが、息を殺し、ただ目のにある薬を煎じる具だけを見つめ続け、指先1つ、髪の毛1本すらかさなかった。
庄兵は忌々しそうにの文銭を拾いげ、苦々しく舌打ちをした。
「やはり本当にが聞こえぬ唖のうつけか」
半信半疑ながらもこれ以の詮索は無用と判断し、庄兵は部を退散した。この2、き延びるために血を吐くようないでにつけたお染の偽りの姿が、危を救ったのである。
母をた庄兵は、待ち構えていた権蔵に命じた。
「が聞こえぬというのはどうやら誠のようだな。だがまだはできん。あの女のきを今も徹底に見張れ。しでも審なきを見せたら、即座に俺にらせるのだ」