"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第12話
やがて音もなく薬へ入ってきた権蔵は、呆然と座り込んでいるお染を瞥すると、懐から厳に折りたたまれた包みを取りし、鈍くるの猛毒の末を源の薬のへと気に振り落とした。
障子の隙からその瞬を網膜に焼きつけた宇兵は、りと恐ろしさに拳を刻みに震わせた。これで宇兵は、権蔵が主殺しの毒を盛っている事実を己の目で確認したき証となったのである。
さらに、お染は権蔵が作業を終えてった、ごみ箱の隅へ投げ捨てていった空の包みを拾いげた。内側の折り目には微細な毒の末がく付着しており、油にに包んで決定な物証拠として保管した。
次なる狙いは、この猛毒の所を突き止めることだった。数の昼がり、権蔵が用事があると偽って表をていくと、宇兵は町の拭いをく被り、くれた物から慎に尾した。
権蔵は賑やかな表通りを避け、町れのどん詰まりにある暗く寂れた1軒の薬種問へとを踏み入れ、懐にしい包みをねじ込んでてきた。
宇兵は古びた板の文字との位置を脳裏に焼きつけ、すぐさま敷へ引き返して台所の裏でお染に報告した。これでの薬種問、実犯の権蔵、そして黒幕の庄兵へと繋がる全ての謀の鎖が1本の線となった。
ところが、勝利への筋が見え始めた矢先、3のに絶体絶命の危がち塞がった。これほど毒を盛りながらも源がに至らぬことを審にった庄兵が、お染に疑を抱き、の狭い奉公部を力づくで探しするよう権蔵を差し向けたのだ。
権蔵はお染の部の障子を凄まじい音をてて蹴りけ、同然に踏み込んできた。
「どけ、こののきけぬ痴め。おの部に妙な隠し事がないか、隈なく調べさせてもらうぞ」
権蔵はお染の体を乱暴に突きばすと、棚の荷物や洗濯の具をへぶちまけ、煎餅布団を引き裂いて部をひっくり返し始めた。
お染は全の血の気が引くのをじた。これまで集めた全てのかぬ証拠が、まさにこのい畳のすぐのに眠っていたからである。権蔵が板を1枚でも剥がせば、全てが終わる状況だった。
「どこだ、どこかにおかしな薬でも隠してやがらねえか」
お染は極限の恐怖ので脳を回転させ、わざと権蔵のだらけの着物の裾に必にしがみついた。そして焦点の定まらぬ虚ろな目で彼を見げ、よだれを垂らしながら奇声をげて幼児のように無邪気に笑いかけた。
「この痴め、どこにを触れてやがる。どけ!」
権蔵が苛ちをわにして突きばすと、お染はその隙を見逃さず、部の隅に置かれていた古い噌樽の方へとすり寄り、わざと体をぶつけて樽を派にひっくり返した。
樽が倒れ、から熟成された古い噌が面にどろどろと溢れし、狭い部のに烈な臭いがち込めた。
「うわあ、なんて臭いだ!このくそ馬鹿めが、体何をしやがる」
権蔵はをつまみ、顔を歪めて激しく舌打ちをした。お染は割れた樽のでただおろおろと怯え、言葉にならぬ声をげながら蹲る真似を続けた。
「こいつは本当に救いのない本物の阿呆だ。えい、汚らわしい、もう見ていられるか!」
悪臭とお染の完璧な痴の演技に気力を削がれた権蔵は、を押さえたまま吐き捨てるようにして部をていった。の証拠は守られ、その夜、部始終をから見ていた宇兵は声を潜めてお染の転を称えた。
そのにも、自ら机に向かってを握れるほどに回復した源は、病に伏せっているに滞っていた政の帳簿や蔵・穀物蔵を調べ始めた。
すると、そこにあるはずの莫な米や、先祖代々の財宝が自然なほど激減していることに気づいた。庄兵が甥の病気療養や薬代という義名分を盾に、裏で次々と運びして私腹を肥やしていたのである。
源はすぐさま宇兵を密かに自へ呼びし、なぜがの蔵がこれほど空同然になっているのかと問い詰めた。