"夫の親孝行は、私の持ち家でした" 第6話
得げにを鳴らす夫を、私は瞬きもせずに見つめ返した。
喉の奥がわずかにえる。
この男ののには、本当に「私が断る」という選択肢がしないのだ。
「向きに検討するにしても、約束だけで話をめるわけにはいかないわ。私は経理の仕事をしているの。数字の裏付けがない計画には、判は押せない」
「裏付けって……袈裟だなあ。俺がちゃんと営業のプロとして全体を見てるんだから、任せておけばいいんだよ」
修は笑いながらを振ってみせた。
その雑な仕に、苛ちではなく徹な確信が募る。
「任せるわけにはいかないわ。族の事でしょう? だから、面にしてちょうだい」
私はノートののページをトントンと指先で叩いた。
「物件の正確な購入予定価格。諸経費。付の額。毎の宅ローンの返済計画。修繕積と管理費の総額。そして――のどころと、居の名義を誰にするのか。すべてにきして、私に提示して」
修の笑顔が、目に見えて引きつった。
「な、なんだよそれ。まるで会社の稟議じゃないか。族のでそこまで細かく類にする奴がいるかよ」
「います。数千万円の買い物を、メモ枚なしでめるのほうが異常よ」
私は線を切逸らさず、夫の目をまっすぐに射抜いた。
「お義母さんを本当にさせたいなら、老破綻しない確実な資計画が必なはずでしょう? それとも、誰がいくら払うのかも決めずに、き当たりばったりでを買うつもりだったの?」
「そ、そんなわけないだろ! ちゃんと俺ののには計算があるんだよ!」
図を突かれた男の、典型な逆。
声を荒らげる修の胸ぐらを掴む代わりに、私はさく微笑んでみせた。
「なら、それを文字にして見せて。プロの営業課なら、ペーパー枚まとめるくらい、朝飯でしょう?」
挑発を含んだ私の言葉に、修は顔を真っ赤にして顎を引いた。
「等だよ! そこまで言うなら、おがぐうの音もないような完璧な資計画を作ってやるよ! 見てろよ!」
夫は残りの酎ハイを気に煽り、乱暴にちがって階の斎へとがっていった。
階段を軋ませるい音を見送りながら、私は静かに息を吐く。
罠にかかった。
私の狙いは、資計画の相談などではない。
夫自ので、「妻の婚財産を全額奪い、自分の単独名義にする」という証拠をのに自させることだ。
そして、週末がやってきた。
曜の正午過ぎ。
インターホンのけたたましい連打音が、リビングに鳴り響いた。
「はーい!」
奥の部からびしてきた子が、嬉々として玄関へっていく。
鍵がく音と同に、障りな甲い声が廊に響き渡った。
「こんにちはー! お義母さん、来ちゃいました!」
弟嫁の美智子だ。
続いて、すりで気だるそうに入ってくる男の。
義弟の浩だった。
「お邪魔しまーす。兄貴、いる?」
「浩、美智子さん、よく来たわねえ! さあさあ、がって頂戴!」
子の声は、普段私に向けるややかなトーンとは打って変わって、甘ったるく弾んでいた。
まるで実をが物顔で仕切る主のように、をリビングへ招き入れる。
階からりてきた修も、満面の笑みで弟の肩を叩いた。
「おう、浩! かったな」
「兄貴から『居の相談がある』って言われたら、そりゃんでくるよ! 駅、再発でめちゃくちゃ栄えてるじゃん。あのマンション、マジで建つの楽しみだなあ」
浩は産の菓子折りのひとつも持たず、当たりのようにダイニングの子を引いて座り込んだ。
よれたTシャツに履き古したジーンズ。
半ばを過ぎて定職にも就かず、パチンコと雇いの警備員を繰り返している男の、締まりのない顔。
美智子はといえば、リビングを見回しながらを鳴らした。
「やっぱり、このおって当たりが微妙ですよね。井もいし。くあの『グランドメゾン』に引っ越したいわあ。私、モデルルームの写真ネットで見たんですけど、キッチンがアイランド型なんですよ! テンションがっちゃう!」
私はキッチンで麦茶をグラスに注ぎながら、背でその会話を聞いていた。
胸の奥で、氷のようにたい塊が急速に結晶化していく。