"実母の50万円、義母の500万円" 第6話
私がたく突き放すと、夫は焦ったように着の内ポケットを探り始めた。
取りされたのは、折り畳まれた数枚のA4用だった。産会社のロゴが印刷された、査定の写しだ。
「これを見ろよ。先、りいの業者に概算をさせたんだ」
夫は勝ち誇ったような顔で、査定額の欄を指先でトントンと叩いた。
そこには、『概算査定価格:千百万円』という確な数字が印字されていた。
「千百万だぞ。実のにはこれだけの価値があるんだ」
夫は私の顔を窺いながら、畳み掛けるようにでまくしてた。
「百万くらい貸したって、将来あのを処分すれば余裕で全額返せる。おだって絶対に損はしないだろ?」
……は?損をしない?
「あなた、先から勝にお義母さんのを査定にしていたのね」
私は背筋にたいものがるのをじながら、夫の目をじっと射抜いた。
「母さんのためをって調べただけだろ! 悪気なんてあるわけないじゃないか」
「本当にお義母さんのためをうなら、どうしてそのを売って入居費用に充てるよう勧めないの?」
夫は言葉に詰まり、線をあちこちに彷徨わせた。
千百万円の資産があれば、百万円のなど容易に捻できる。々の管理費だって、売却益から賄えば何の問題もないはずだ。
「売れるわけないだろ! 父親が遺したを売るなんて、親孝者のすることだ!」
「親孝? 違うわね」
私は夫のから査定をたく引きし、玄関のシューズボックスのへ滑らせた。
「あなたは実を守りたいんじゃない。将来自分がに入れるはずの遺産を、円も減らしたくないだけよ」
夫の顔から、さっと血の気が引いていくのが分かった。
「お義母さんの資産にをつければ、あなたの取り分が減ってしまう。だから私の個の預を代わりに差しさせようとしたのね」
「な……何を馬鹿なことを言ってるんだ!」
夫の声がずり、狼狽したように裏返った。図を突かれたの、典型な反応だった。
「、私の母の術費万を『正気か』と罵った理由が、今ようやく分かったわ」
喉の奥で、え切ったりが静かに渦を巻いていた。
「私の座から万が消えれば、あなたが当てにしていた百万が目減りするからよ。最初から私の預を、自分の相続を守るための防波堤にするつもりだったのね」
「違う! 俺はただ、夫婦として助けおうと――」
「夫婦の助けい?」
私は笑を浮かべ、夫の言葉を真っ向から切り落とした。
「私がす百万は、今ここにある現よ。でもあなたが言っている相続なんて、まだ誰にも決まっていない確かな妄じゃない」
「妄じゃない! 俺は男だぞ!」
「健太さんという弟がいるでしょう。遺言もないのに、なぜあなたが全額独り占めできるとい込んでいるの?」
夫はギリギリと奥歯を鳴らし、拳を握りしめたままち尽くした。
私はそれ以相にせず、コートを脱いでリビングへと向かった。
背から夫の荒い呼吸が聞こえていたが、私のはすでに次の布へといていた。
数、夫の態度が気なほど化した。
私が査定を精読していた様子を見て、をす方向に傾いたと勝にい込んだらしい。
「美咲、母さんがな、退院祝いと入居の報告を兼ねて事会をくって言ってるんだ」
夕、夫は嫌を取るように缶ビールを私のグラスに注ごうとしてきた。
私はそのを軽くで遮り、ややかに夫の顔を見つめた。
「事会? アリアコートの入居枠はもう流れたはずでしょう」
「それがさ、別の部でまた空きがそうなんだよ。今度こそ確実に押さえるからさ」
夫はへらへらと笑いながら、元のスマートフォンを操作してみせた。
「文伯母さんたちも呼んで、駅の料亭を予約したんだ。親戚みんなので、俺たちのからきちんとお披目しようって母さんが張り切っててな」
あの居での醜態を、親戚のできするつもりなのだ。
男が派に資を用て、母親に級な余をプレゼントしたという絵図を、どうしても完成させたいらしい。
「そう。お義母さんも楽しみにしているのね」