みかん小説
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"五十七回の夜と、四十七枚の告発" 第1話

午分、私は最の枚となった張りを、本料理「加亭」のえ切ったガラス戸へと押し当てた。指先に付着した澱糊が乾きかけ、ねっとりと皮膚にへばりついていた。

袖でそれを力任せに擦ってみたものの、糊の粘り気は頑固に残ったままだった。私はため息をつ吐きし、汚れた袖をそのままにして、目ののいに線を戻した。

に並ぶきの文字は、決して達とは言えなかった。過ものあいだ、包丁と華鍋ばかりを握り続けてきた武骨なである。ペンをらせる指先は微かに震えていたが、文字のつひとつは太く、黒々としていた。

『秘、回の夜、私の夫の世話をしてくださり本当にありがとうございました。自らの至らなさと恥をじ、これにてを引かせていただきます。』

署名欄には、私の本名である「」の文字だけを刻み込んだ。その最の枚を貼り終えるまでに、私は夜けの暗のを歩き回り、通り沿いの灯の支柱、隣接する商のシャッター、そして加亭の正面玄関へと、計枚のを貼り巡らせていた。

これら枚のはすべて、午から私がで枚ずつ糊を塗り、たい建物の表面へと押し当ててきたものだった。を吹き抜ける朝のたいが、の端をピラピラと捲りげた。

私はち止まり、剥がれかけた角にのひら全体を押し当て、もう度く圧着させた。糊の分を吸ったいは半透になり、ガラスの向こう側の景をぼんやりと透かして見せていた。

ガラス戸の奥の暗がりには、騨から取り寄せた赤材のテーブルと子が静かに並んでいた。、加亭を構えたばかりの頃、私の父がわざわざを雇って奥から運ばせてくれた、いの詰まった調度品だった。

私は空になったプラスチックの糊の容器と、余ったの束を抱え直し、ゆっくりと踵を返してのへと歩きした。反対側の角から、箒をにした清掃作業の老が押しを押してやってきた。

老はすれ違いざまに私の顔をじっと見つめ、それからガラス戸にびっしりと貼られた異様ないへと線を移した。しかし、何かを尋ねてくることもなく、ただ無言のままい音をてて通り過ぎていった。

を抜けようとしたその瞬、コートのポケットので携帯話が震えた。画面を点灯させると、写真投稿アプリから通が届いていた。分、秘のアカウントがしい写真を公したというらせだった。

画面をタップすると、見慣れたリビングの景が目にび込んできた。

写真のの健は、柔らかな革のソファのに横たわってく眠り込んでおり、その体には淡いベージュの毛布が丁寧に掛けられていた。

ローテーブルのには、み残しの赤ワインが入ったグラスがつ並んでおり、そのうちのつの縁には、鮮やかなのの跡がくっきりと残されていた。

写真のに添えられたキャプションは、わずか数文字だった。『また』。私はその写真を、すでに昨夜の点でリアルタイムに確認していた。

昨夜、私は自宅キッチンのたいフローリングに膝を抱えて座り込んでいた。元に投げされたスマートフォンの液晶画面は、スリープしては消え、私が画面をタップしては再び点灯する、という作を何回も繰り返していた。

画面が消えるたびに指を伸ばしてかりを灯し、私はその枚の写真をい入るように凝した。毛布の細かな織り目を脳裏に焼き付け、グラスの位置関係を測り、ソファの背もたれに置かれた見覚えのあるクッションを睨みつけた。

そのクッションは、のに私が具で購入したものだった。選んだとき、健は「がすぎてパッとしない」と眉をひそめ、私は「汚れが目たなくてく使えるから」と譲らなかった。最終に彼は「おの好きにしろ」と吐き捨てたのだ。

そのクッションが、なぜ秘の自宅マンションのリビングにあるのか、私は今までまったくらされていなかった。

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