みかん小説
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"五十七回の夜と、四十七枚の告発" 第2話

私はキッチンのにうずくまったまま、もできずに朝を迎えたのだった。

沈黙に包まれたキッチンでは、古びた換気扇のダクトから滴がポタポタと落ちる音だけが響いていた。がるたびに湿気が排気の奥に溜まり、滴となって落ちてくるという、の建物の持病のようなものだった。

私はその規則な音にを澄ませながら、滴、滴とので数え続け、滴目を数えたところで指を止めた。滴は度途切れ、再びポタリと落ち、またしばらくして静まり返った。

回。それは、夫である健が彼女のマンションで夜をかした、通算回目の夜をしていた。

ちがろうとした瞬、両が激しく痺れて覚を失っており、私はシンクの縁に爪をてて必に体を支えた。数分そのままち尽くして血流が戻るのを待ち、蔵庫のい扉をけた。

野菜の奥から、自作の保瓶を取りした。には漬け込んだ自製の梅シロップが入っており、え切った琥珀の液体の表面にはい膜が張っていた。

属のスプーンでシロップをすくいげ、のへと運んだ。舌のに広がった烈な酸が粘膜を刺激し、全の皮膚が粟つほどの震えがった。

その酸っぱさでの芯が冴え渡った私は、戸棚から画用を探し始めた。

にはきな模造がなかったため、学になる男の古いスケッチブックを引っ張りし、余のいページを何枚も引き裂いた。

ペンはの正に賀状をくために買ったもので、墨汁は岐阜の実にむ義父が価な硯と緒に贈ってくれたものだった。私は硯にを垂らし、墨をすり、いを平らに広げて、文字ずつ墨を染み込ませていった。

最初の枚をくとき、私の首は抑えきれずに刻みに震え、墨汁がの繊維に沿って黒く滲んでしまった。枚目をくときも、臓の悸が指先に伝わり、線が波打った。

しかし、枚目をき終える頃には、の震えは完全に消え失せていた。そして枚目をき終えた頃、キッチンの窓のがみ始め、夜がけようとしていた。

きげたの枚数を数え直すと、ちょうど枚あった。私は分な数だと判断し、の束と糊のボトルを胸に抱えて、静かに玄関のドアをけたのだった。

朝の通りは静まり返っており、角にある営業のコンビニエンスストアだけが、青い蛍灯のを歩に投げかけていた。

私は加亭へと続く細いにを踏み入れ、数歩むごとにち止まり、壁や柱へ枚ずつ丁寧にを貼っていった。ごとの壁面にのひらを当て、シワが寄らないよう平らに伸ばしながら圧着させていった。

朝のたいのせいで糊が急速に乾いていくため、際よく作業をめる必があった。枚すべてを貼り終えたとき、の空の端が鼠からいへと変わり始めていた。

ポケットので、携帯話が再び激しく振した。今度はSNSの通ではなく、着信を告げるバイブレーションだった。液晶画面には「健」という文字が表示されていた。

私は通話ボタンを押さず、たい画面を見つめ続けた。着信音は数秒鳴り響いたのちに途切れたが、わずか数秒の沈黙の、再び同じ名を点滅させながら震えした。

私は画面を裏返し、設定画面をいて着信拒否の項目をタップすると、そのまま源ボタンを押しして端末の源を完全に切ってしまった。

を抜けると通りの歩にた。にはすでに、始発の線バスが排気音を響かせながらりっていくところだった。

私は端にち尽くし、自分がこれからどこへ向かうべきなのかを瞬見失いそうになった。あの自宅へ帰る気には、どうしてもなれなかった。

今あののリビングへ戻れば、昨私が彼の帰宅を待つために用した夕が、テーブルのにそのまま残されているはずだった。ラップがかけられたままの煮物や焼き魚は、すっかりえ切って脂がく固まっているに違いない。

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