みかん小説
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"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第4話

咲は折りたたみ傘をこうとしたが、骨の本が曲がってしまい、うまく広がらない。今度こそ恥ずかしさを隠せず、彼女は苦笑した。

「今は何をやってもうまくいきませんね」

連はその様子を見つめ、にしていた黒い傘を差しした。使えばいいという迷いのない申しだった。

「それまで借りたら返すものが増えてしまいます」

咲が答えると、連は初めて元をわずかに緩めた。君は何でも借にするんだなと言う言葉に嫌はなく、どこか楽しそうな響きがあった。咲もわず笑ってしまう。

「そうかもしれません。でも返せるものはきちんと返したいんです」

連は傘を引っ込めず、しばらく彼女を見ていた。笑ったの咲は、先ほどまで緊張していた女性とは別のように柔らかい表になった。

「では返せばいい。傘も緒に」

に濡れながら帰るよりは現実だと判断し、咲は傘を受け取って丁寧にをげた。連は自分がまた会うための理由をつ増やしたことに気づき、内で苦笑した。

普段なら目のないを避ける彼が、今夜はまるで領の悪いのようだった。しかもその器用さをしもにじていなかった。

傘をいた瞬、咲の買い物袋から鈍い音がした。さに耐えきれなかった持ちが片方だけ伸び、米の包みが傾いたのだ。

連はすぐにを伸ばしたが、咲もほぼ同にいていた。

彼女は袋の底を支え、荷物を歩の乾いた所へ移す。鞄からさな布の袋を取りし、際よく荷物を分けた。指先には細かな傷があり、い袖にはいのがついていた。

「何の仕事をしている」

連が尋ねると、咲は袋のを結びながら、建物の全性を調べる仕事だと答えた。古い建物の傷み具を確認しているという言葉に、連は建築関係かとわずかに反応する。

「現にることがいので、こんなに荷物をまとめるのは得なんです」

危険な仕事もあるだろうと連が問うと、咲は危険を見つける仕事という方がいと笑った。彼女は買い物袋を持ちげ、に霞む向かいの古い商を見た。

咲が今取り組んでいる調査も、まさにその考え方を試される仕事だった。古い商の壁には細かなひびが入り、井裏には湿気の跡が残る方で、の入れによって主な部分がしっかり保たれている建物もある。

現にたず、写真の印象だけで律に判断してしまえば、取り返しのつかない決定につながりかねない。

咲は図面を鞄から取りしかけて、さすがに初対面のにそこまで説する必はないとい直した。仕事の話になるとついが入ってしまうのは、昔からの癖だった。

「建物ってから見るだけでは分からないことがいんです。綺麗でもが傷んでいることがあるし、古くても切に使えばく持つものもあります」

連は何も言わずその横顔を見つめた。仕事の話をする咲の声には揺るぎない誇りがじられた。

「私は建物を壊すか残すかを決めるではありません。でも判断するが正しい数字を見られるようにしたいんです。そこで暮らしているたちの活もかかっていますから」

そこまで話して彼女はに返り、初対面のに仕事の話ばかりしてしまったと謝った。連は首を横に振り、面い話だったとく返した。それは社交辞令には聞こえなかった。

「宮さんはどんなお仕事をされているんですか?」

今度は咲が尋ねた。連は瞬だけ返事に迷い、会社で働いていると雑把に答えた。咲が目を丸くすると、連はし困ったように線を逸らし、の仕事を管理することがいと付け加えた。

「管理職なんですね。それならきっと毎変でしょう」

その無邪気な推測に連は否定も訂正もせず、まあそんなところだと答えた。咲は相があまり自分のことを話したくないのだと察し、それ以は踏み込まなかった。

「そろそろ帰ります。本当にありがとうございました」

咲がをげると、連は気をつけて帰れとく言った。

その言い方がどこか命令のようで咲はさく笑い、宮さんも気をつけてと返しては別れた。

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