"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第5話
咲の姿が角を曲がって見えなくなるまで、連はスーパーのひさしのにっていた。たった数千円の買い物代をて替えただけなのに、いがけずい会話をした。
彼女から銭な見返りを期待されるどころか、返済の約束を取り付けられてしまった。
やがて通りの反対側に黒いが止まり、運転席からりた配の男性が連にづいてくをげた。連は座席に乗り込むと、の予定を尋ねる運転に「10からしを空けておいてくれ」と指示をした。
運転はく承しましたと答え、バックミラー越しに主の顔を確かめた。いつもはに乗り込むとすぐ資料をく連が、その夜は窓のに目を向けたまま何も指示しなかったからだ。
は濡れた面を静かにりし、信号待ちのたびにのかりがガラスを滑っていく。連の胸には、返済を迫った女性の真剣な表と、曲がった傘を見て苦笑したの柔らかな笑顔が交互に浮かんでいた。
自分の活にこんなさな来事が入り込む余が残っていたことが、なぜか嬉しかった。
その晩、帰宅した咲は材を蔵庫にしまい、台所のさなテーブルにレシートを広げた。何度見ても計は3860円で、印字された刻まで鮮に残っている。
黒い傘は玄関脇にてかけたが、濡れたまま返すわけにはいかないとい直し、乾いた布で滴を拭った。
らない男性から傘まで借りたことを考えると、いつもの自分らしくない気がする。
それでも、あの傘を差しした連の声には、何かを求する響きがなかった。咲は翌朝の返済を忘れないよう帳にき込み、財布のとの営業を確認した。
布団に入ってからも、い会話が何度かに浮かんだ。特別な来事だったのに、い返すのは彼の顔よりも、ろに客が並んでいることを気遣った言葉や、自分の仕事の話を途で遮らずに聞いてくれた姿だった。
眠る、咲はあの親切が相の負担になっていなければいいとい、はきちんとお礼を言おうと決めた。
翌朝、目覚まし計が鳴るよりく咲は目を覚ました。朝を済ませて駅のへ向かい、正常に戻ったカードで現を引きす。くので貨を用し、3860円を円の違いもなく封筒に入れた。
借りた黒い傘を専用の袋に入れ、封筒と緒に鞄へ収めると鏡ので装をえた。いシャツに紺の着、きやすい黒いズボン。初対面のにおを返しにくのだから失礼のない格好でいたかった。
に揺られながら所を確認する。目は内でも名な業務区のにあり、周囲には企業の本社や級ホテルが集まっている所だった。
最寄り駅の改札を抜けた瞬、咲はわずを止めた。正面には青い空を映した超層ビルがそびえち、周囲を朝のが照らしている。入りの壁には「宮総グループ」というきな文字が刻まれていた。
宮グループといえば産、建設、融など幅広い事業を展する巨企業だ。咲は驚きながらも、彼はこの派な建物で働いているなのだと考え入りへ向かった。
階の玄関を通ると磨きげられたのが朝を反射していた。
咲は無識に自分の靴を見ろした。普段から現を歩くために選んだ、歩きやすさを優先した革靴である。受付の奥にはきなが飾られ、社員証を首からげた々が慣れた取りでき来していた。
昨の男性はここでどんな仕事をしているのだろう。管理職だと言っていたから、階のどこかに執務があるのかもしれない。
咲は封筒が鞄のにあることをもう度確かめ、こんな派な所までわざわざ来させてもらったのだから、に用件を終えようと考えた。受付の女性に宮連と会う約束があると伝えた途端、女性はわずかに目を見いた。
「恐れ入りますが、もう度お名をお聞かせいただけますか?」
咲が野咲だと名乗り、昨宮さん本から来るように言われたと答えると、受付の女性は別の職員へ声で何かを伝え始めた。