"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第6話
くにいた警備員までさりげなくこちらを見ている。咲は急にになった。
その、玄関付の空気がに変わった。歩いていた社員たちがを止め、入りの両側へ静かに移し始めたのである。受付の女性も姿勢を正し、警備員たちは背筋を伸ばした。
きなガラス扉の向こうに黒いがし、運転が部座席の扉をけるとの男性がりった。濃いの着をにつけたその物を見た瞬、咲の呼吸が止まりそうになった。
違いない。昨夜スーパーで自分の買い物代を払ってくれた宮連だった。最列にいた男性がくをげ、「おはようございます、会」と声をかける。それを図に社員たちが斉に礼をした。
咲の周囲だけ、が止まったようだった。昨夜の彼は、スーパーの軒先で濡れた髪を気にも留めずにっていた。今は数の役員を従え、誰もがを譲る物としてそこにいる。
見はほとんど変わらないのに、まるで別の世界のに見えた。咲は昨の会話を慌ただしくい返した。相の事もらず、額の問題ではないと頑固に言い張ったこと。
壊れた傘を借りてしまったこと。仕事を管理していると聞いて気軽に管理職ですねと返したこと。頬がくなったが、それでも借りを返すという約束だけは変わらなかった。
「会」という言葉がの奥で何度も繰り返される。あのがこの巨企業の頂点につ物だという事実に、あまりの驚きでが追いつかなかった。
連は社員たちにく挨拶を返し建物の奥へもうとしたが、受付のにっている咲を見つけると歩みを止めた。同していた役員の説を途で遮り、真っ直ぐ咲の元へ歩いてくる。
「来たんだな」
昨夜と同じ落ち着いた声だった。咲の背では受付の女性が驚きを隠せないままくをげている。咲はどうにか声を絞りし、皆さんが会と呼んでいることについて尋ねた。
「そう呼ばれている。ここでは俺が会を務めているからな」
咲はわず鞄のの封筒を握りしめた。昨自分はこのに向かって、借りたものは返すべきだと真剣に説教し、引に連絡先まで聞きしたのだ。い返すほど顔がくなったが、違ったことを言ったとはわなかった。
々の線が集まる、咲はいがけず父ののことをいした。先で交わされる約束は、相が偉いかどうかによって変わるものではない。
忙しい職にも、初めて買い物に来た客にも、父は同じように品物を渡し、代を受け取っていた。今ここにいる宮連は、自分には到底像できないほどきな責任を背負っているのだろう。
けれど昨夜、困っていた自分を助けてくれたであることは変わらない。咲は周囲の社員がどううかより、本に約束を果たしたいと考えた。昨夜の自分には彼の役職をる段がなく、る必もなかった。
もし最初から会だと分かっていたとしても、同じように謝し、同じ額を返しただろうか。そう自問した咲は、きっとし緊張はしたはずだと認めた。それでも約束のは変わらないと、静かに答えをした。
封筒の端は鞄のでし曲がっていたが、彼女は指で丁寧にえた。目のの相にひるんでしまえば、あのので伝えた言葉まで嘘になるような気がしたからだ。
咲はさく息を吸い姿勢を正した。昨は本当にありがとうございましたと告げ、封筒を取りして両で差しした。連はそれを見てしだけ元を緩める。
「3860円、きちんと入っています。傘もお返しします」
その会話を聞いていた周囲の社員たちは何とも言えない表を浮かべていた。
内数の企業の会が、若い女性から数千円を返してもらおうとしている状況が理解できなかったのだ。
連はここで話すにはがすぎると言い、同していた落ち着いた雰囲気の女性、奈良誠に案内を任せた。3は専用の昇へ向かい、最階の応接へと入った。
きな窓の向こうにはが広がり、内には級な具が配置されている。