"売却済みの洋食店で、女将ごっこをする女" 第12話
「あんた……なんてことを……」
幸子は胸を押さえ、そのにへたり込んだ。信じ切っていた息子からの、決定な拒絶と責任転嫁。守り続けてきたとい込んでいた「族の誇り」が、息子自のによって、ゴミのように踏みにじられていた。
内には、幸子の荒い呼吸と、浩司の喘ぐような息遣いだけが響いていた。
獄絵図だった。、私の尊厳を削り取ることで成りっていた欺瞞の族が、互いの肉をみうように崩壊していく。
私は、その景をただややかに見つめていた。同も、憐憫も、欠片ほども湧いてこない。喉の奥の渇きは、完全に消えっていた。
「浩司さん」
私は静かに、ちがった。
全員の線が、私へと集まる。取り乱す幸子も、涙に暮れる玲奈も、肩をらせる浩司も。
私はテーブルのに落ちていた、糸のエプロンに線を落とした。
「私が会社を持っていたことは、あなた自が番よくっていたはずよ」
私の声は、驚くほど澄んでいた。
「、あなたが設趣と株主名簿に署名したの。私の目ので、震えるで実印を押したわ」
浩司が、ビクッと肩をねさせた。
「あなたはっていた。っていて、母親の見栄を利用し、このの若さを利用し、私の忍耐を利用した」
私は浩司の目を、真っ直ぐに射抜いた。
「全部、自分が傷つかないため。
自分が『派な代目』で居続けるための、ただの保よ」
「美緒……」
浩司の唇がいた。だが、そこから先にる言葉は、もうどこにもしなかった。
黒田が静かにちがり、類を鞄に収めた。
「話は尽きたようです」
黒田の淡な宣告が、苦しい空気を切り裂いた。
「浩司様。本をもちまして、舗へのち入りを切禁止いたします。私物の撤は、当社のち会いのもと、指定するにっていただきます」
「待ってくれ……! 頼む、黒田さん! 話を聞いてくれ!」
浩司がいつくばるように黒田に縋ろうとしたが、同のスタッフに完全に両脇を固められた。
「警察を呼びますか?」
弁護士のい言に、浩司の体が凍りついた。
玲奈は、もう浩司を瞥することもしなかった。零れ落ちた涙をの甲で乱暴に拭い、背筋を伸ばして客席のへと歩きした。その取りには、自らが犯した過ちの代償を背負う女の、凄絶な諦が滲んでいた。
の引き戸がく。のえ切ったが、淀んだ内の空気を気に吹き抜けていった。
幸子はに座り込んだまま、ただ力なく首を横に振っていた。その目は焦点を失い、度と戻らない栄のを虚ろに追っているようだった。
「……終わったな」
本がポツリと呟いた。
私はブリーフケースをに取り、へ向かって歩きした。
「美緒……!」
背から、擦り切れたような浩司の叫びが響いた。
「美緒、かないでくれ……! 頼む、俺を見捨てるな……!」
元に絡みつくような夫の声を、私は度も振り返ることなく、背で切り捨てた。
自ドアを押しけると、の鋭い青空が広がっていた。肺の奥まで吸い込んだ空気は、凍りつくほどたく、そしてどこまでも清らかだった。
瀬亭の引き戸が閉まった瞬、背でかすかに響いていた号も、すすり泣きも、完全に遮断された。
アスファルトを踏みしめる靴音が、によく響く。バッグのに入ったスマートフォンが微かに震えていたが、私はち止まらなかった。
、あののためにすり減らしてきた神経が、急速に体温を取り戻していくのが分かった。私の役目は、終わったのだ。
翌週の曜。私は税理士の井雅彦の事務所を訪れていた。
当たりのいい応接のテーブルに、エム・フーズの法務担当者から送られてきた最終清算が広げられている。
「浩司氏への役員報酬および退職慰労の査定、ましたよ」
井は鏡の奥の目を細め、枚の計算シートを指し示した。
「過の私流用、計百万円。加えて、浩司氏が個にて替えたと主張していた厨器具の代万円。これらをすべて相殺しました」
「……差額は?」
「百万円の、浩司氏から会社への返還債務です」
井は淡々と、しかし容赦のない調で続けた。