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"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第10話

「望美、待て……!」

「寄らないで!」望美はハンドバッグを抱え、歩ずさった。

「全部わかったわ。あなたには、最初から何の力もなかったのよ。全部、礼子さんの掌ので転がされていただけ」

「おい! 待てって言ってるだろ!」

正斗の制止を振り切り、望美は階段を駆けりていった。静まり返った踊りに、正斗の荒い息遣いだけが残された。

午。つホテルの階、義妹・彩の部のドアが、ノックもなしにいた。

「彩……いるの……?」幽霊のような取りで入ってきたのは、髪を振り乱した苗だった。顔は気で、唇が刻みに震えている。

「お母さん……? 体どうしたの、こんな夜に……」ベッドからを起こした彩が、ぎょっとして息を呑んだ。隣で寝ていた夫の直も、異様な気配に目を覚ます。

「望美さんが……望美さんが、あんなことを……」苗は畳まれていないシーツのにへたり込み、嗚咽を漏らした。「あの子、私のことなんか見向きもしないのよ……介護もしないって……正斗のことも無能だって……」

「お母さん、落ち着いてよ」彩はため息をつきながら、元のスマートフォンを操作した。画面には、数分に受信したばかりの通がっていた。

差は、野望美。添付されていたのは、数枚の画像ファイルだった。

「……お母さん」彩の声が、かすかに震えていた。

「何よ……もう、何なのよ……!」

「これ、見て」彩は青ざめた顔で、スマートフォンの画面を苗の目のに突きつけた。

「望美さんから、今送られてきたの。『あなたの兄の正体です。お母さんにも見せてあげてください』って」

苗は涙で霞む目をこすり、画面の文字を追った。それは、正斗と望美のプライベートなメッセージアプリのトーク履歴だった。

付は、ヶ。まさに、苗が「正斗のために」と、礼子に隠れて旅雑誌をめくっていた、あの期のものだった。

画面に並ぶ、息子の言葉。

『母さんには俺の方をさせておけばいい』『どうせあいつは俺に甘いから、しおだてて「嫁がたい」とでも吹き込めば、んでおの方をする』『礼子が騒ぎしたら、母さんに盾になってもらう。母親にギャーギャー言われれば、礼子もくられないからな』

苗の喉から、ヒッと引き裂かれたような音が漏れた。スクロールされる画面。さらに、決定な文が目にび込んでくる。

『婚が済んで遺産の目処がついたら、母親とは縁を切る』『親の面倒まで背負って、しい活を始める気はない。あのババアの干渉にはうんざりなんだよ』

「あ……」

声にならなかった。臓を、太い氷の杭で気に貫かれたような覚。

画面に並んでいるのは、違いなく、自分がし、誇り、すべてを捧げてきた息の言葉だった。

『あのババア』。『縁を切る』。『盾になってもらう』。

「……うそ……」苗の指先が、ガタガタと激しく痙攣した。

「嘘よ……これ、何かの違いよ……! 正斗が、私のあの子が、こんなことくはずないじゃない……!」

「違いじゃないよ」彩がたく言い放った。その瞳には、母への軽蔑と諦めが混ざっていた。

「お兄ちゃんはそういうだよ。お母さんが甘やかして、何でもい通りにさせて、礼子さんに押し付けてきた結果がこれだよ」

「違う……! 私は、正斗のために……あの子の幸せのために……!」

「お母さんが守りたかったのは、お兄ちゃんじゃなくて、『息子にされている完璧な母親』っていう自分の見栄でしょ!」彩の叫びが、狭い部に突き刺さる。

「礼子さんを騙して、仲れにして、嘲笑って……その結果がこれだよ! お兄ちゃんにお母さんは、最初からただのゴミみたいに捨てられる予定だったんだよ!」

「ああああっ……!」

苗の両から、スマートフォンが滑り落ちた。プラスチックの乾いた音がして、画面がで鈍くねる。

苗はを抱え、カーペットのに突っ伏して絶叫した。涙とが顔を濡らし、喉から獣のような慟哭が溢れる。

自分が誇りにしてきたが、瞬で瓦解した。嫁を見し、踏みつけ、に入れたはずの「息子の絶対な」。その正体は、都よく使い捨てられるための、っぽい盾に過ぎなかった。

部の隅で、直が静かに目を背けた。では、マルセイユのたい夜が、窓ガラスをガタガタと激しく揺らしていた。

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