"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第12話
「あ……」正斗の喉から、空気の抜けるような音が漏れた。顔面から完全に血の気が引き、膝ので組んだ拳がガタガタと震えす。
座卓を、バチンと乾いた音が叩いた。耕造のだった。義父の全が、りでわなわなと震えている。
「正斗……貴様……」
「お、親父、違うんだ! あれはあいつが勝に……!」
「黙れッ!!」の老のものとはえない声が、敷の梁を揺らした。
「俺の古希祝いだと……? 息子の親孝だと、俺はあのので涙ぐんでいたんだぞ! それが何だ! 会社のをくすね、を連れ込み、その隠れ蓑に俺のの祝いを使ったのか!」
耕造の瞳から、悔し涙が溢れた。「から築きげてきた会社の信用を、俺の顔にを塗って……恥をれ! 恥を!」
「お父さん、もうやめて……!」それまで沈黙していた苗が、鳴をげて耕造の腕にすがった。
「正斗だって反省してるわ! 会社のは、私が実のを売ってでも全額返しますから! だから、正斗を役員からろすようなことだけは……!」
「母さん、おもだ」耕造は、すがってきた苗の腕を、汚らわしいものでも見るように力任せに振り払った。
「キャッ……!」苗が畳のに崩れ落ちる。
「おもっていたんだろう。あの女が正斗のだと、ったでに乗ったそうだな」
「そ、それは……族の波をてたくなくて……」
「嘘をつくな!!」耕造の号が再び響く。
「波をてない? 礼子さんに黙って、でを侍らせて、それが族の平を守ることか! おがやってきたのは、ただの共犯だ! 母親面して息子を甘やかし、会社とをい潰す化け物を育てげたんだ!」
「違う……! 私はただ、正斗の方をして……!」苗は畳に額をこすりつけ、泣き叫んだ。
その、ずっとを向いていた彩が、震える声でをいた。
「……お母さん、もう見苦しいよ」
「彩……?」苗が涙でぐしゃぐしゃの顔をげる。
「私も、ってて黙ってた。お母さんに『余計なことを言うな』って言われて、従っちゃった。……礼子さん、本当にごめんなさい」彩は々とをげた。夫の直もそれに倣う。
「私たちも、自分の分の旅費は全額、監査部に返しました。……お父さん、お兄ちゃんが望美さんに送ったメッセージ、これだけじゃないんです」
彩はバッグから、プリントアウトした用を取りした。マルセイユの夜、望美から送られてきたあのトーク履歴だった。
「やめろ、彩! すな!」正斗が叫んでびかかろうとしたが、直がその肩を力く組み伏せた。「義兄さん、みっともない真似はやめなさい!」
用が、耕造のへと渡る。老鏡の奥で、義父の目が文字を追うごとに、そのりは徹な絶望へと変わっていった。
『母さんには俺の方をさせておけばいい』『礼子が騒ぎしたら、母さんに盾になってもらう』『親の面倒まで背負って、しい活を始める気はない。
あのババアの干渉にはうんざりなんだよ』
耕造は用を静かに座卓のに置いた。そして、にいつくばっている苗を見ろした。
「……読め」
「え……?」
「おが命がけで守ろうとした息子の、これが本だ。読めと言っているんだ!」
苗は震えるでを拾いげた。すでにマルセイユの夜に読んだはずの文字。だが、夫と娘の面で、本宅の広で突きつけられたその言葉は、苗の魂を容赦なく引き裂いた。
「あ……あぁ……」苗の喉から、言葉にならない獣のような呻きが漏れる。
「正斗……あなた、本当に……私のことを、ババアって……? 盾にするって……?」
正斗は直に押さえつけられたまま、顔を歪めて嘲笑うように吐き捨てた。
「そうだよ! 悪いかよ!」き直った息子の瞳には、もはや親へのなど欠片も残っていなかった。
「おがいつまでも『正斗、正斗』ってまとわりついてきて、息が詰まりそうだったんだよ! 礼子に偉そうに説教して、自分は何もしないでふんぞり返って! だから利用してやったんだよ! おが勝に浮かれて望美をに乗せたんだろ! 全部おのせいだ!」
「ああああああっ!!」苗は両でを塞ぎ、髪を振り乱して絶叫した。
自の息子。世界で番自分をしてくれるはずだった息子。そのによって、の母親としてのプライドが、跡形もなくつ裂きにされた瞬だった。
広が、苦しい静寂に包まれる。