"娘が義母に叩かれた日、娘婿はケーキで済ませようとした" 第3話
『け、警察……? お、何言ってんだよ! げさすぎるだろ! 族の喧嘩に警察や病院を持ちすなんて、正気か!?』
「族だからって、殴られて黙っている筋いはないわ」
『母さんは寄りなんだぞ! おがそんな態度取るから……っ! とにかく、今すぐ帰ってこい! 俺がに入ってやるから、母さんに謝って、元の活に戻そう。な?』
「戻らないわ」
美咲は静かに、だが確に通告した。
「もうあのには帰らない。今のことはすべて弁護士を通して連絡します」
『おい、美咲! 待てよ! 弁護士ってどういうことだよ! おい――』
直さんの取り乱した叫びを、美咲は親指本で酷に遮断した。 通話終の無質な子音が鳴り、再び部にい沈黙がりる。
美咲はスマートフォンを裏返しにしてテーブルに置いた。 そのは、もう微も震えていなかった。
「これで、もう引き返せないわね」
「引き返す必なんて、最初からどこにもないわ」
私はちがり、めたお茶を片付けた。 娘が引いた境界線は、もう誰にも踏み躙らせない。
翌の午、直さんから美咲に「話がしたい。で向かうから、せめて顔を見て謝らせてほしい」と何度もメッセージが届いた。
美咲は弁護士に確認を取ったで、アパートの所にあるホテルのラウンジで、だけという条件をつけて会うことを承諾した。
私は同席せず、しれた別のボックス席からの様子を見届けることにした。
約束の分、直さんが現れた。 皺ひとつないスーツに、には名百貨の袋を提げている。 美咲の好きな菓子のロゴが入っていた。
何か揉め事が起きるたび、彼はいつもそうだった。 価な菓子を買い、困ったような優しい笑顔を浮かべ、「悪かったよ、嫌直して」とをげる。 そのをやり過ごし、問題の本質には絶対に触れず、妻の諦めに甘え続けてきた男の定番のルーティン。
直さんは美咲の正面に座ると、痛々しそうに眉を寄せた。
「美咲……頬、まだ腫れてるじゃないか。痛むのか?」
美咲はテーブルのに両を揃えて置いたまま、微だにしなかった。
「もう腫れは引いてきたわ。件は何?」
直さんは慌てて袋からの包みの箱を取りし、テーブルの真んに滑らせた。
「これ、おが好きだったモンブラン。季節限定のやつ、並んで買ってきたんだ。……昨はいきなり鳴って悪かった。俺も仕事で疲れてて、母さんがあまりに泣いてるから取り乱しちゃってさ」
美咲は差しされた菓子折りに線すら向けなかった。
「お義母さんは、自分がしたことをどう言ってるの?」
「反省してるよ。本当に。寄りの悪い癖で、のコントロールが効かなくなってたんだって。
直からも美咲さんに謝っておいてくれって、今朝も言ってた」
「本からの直接の謝罪は、切ないのね」
直さんの表が引き攣った。
「そ、それは……おが弁護士なんて言いすから、母さんも怖がっちゃって。直接会ったらまたになるかもしれないから、まずは俺がに入ろうとったんだ」
「直」
美咲の声は、驚くほど平坦だった。
「お義母さんが私を殴ったこと、あなたはどうってるの?」
「もちろん、絶対に良くないことだよ。暴力なんて言語断だ」
直さんは即座に、模範解答のような言葉を並べた。 だが、そのに続く接続を、私は痛いほど予できていた。
「……でもさ、美咲」
案の定、直さんはを乗りし、懇願するように声をくした。
「おも、母さんに『てけ』って言ったんだろ? あのは俺たちのだけど、母さんにとっては息子のでもあるんだ。夫をくして寂しいいをしてる母親に向かって、あんな突き放すような言い方をしたら、ショックを受けるのも無理はないとわないか?」
「だから、私にも落ち度がある?」
「落ち度っていうか、お互い様だったんじゃないかってことだよ。どっちが悪いって黒つけるんじゃなくてさ、しずつ歩み寄ろうよ。母さんも、美咲が戻ってきてくれるなら、今は料理の付けとかにをさないって約束してくれたから」
美咲の瞳から、が完全に消えった。 酷なまでの無表。 直さんはそれに気づかず、応えをじたように笑みを浮かべた。