"「格下」の同級生に頭を下げる夜" 第2話
真っな名刺が枚、滑らかに引き抜かれる。
「桂さん」
鳴るわけでもないのに、通る声が静寂の広を満たした。
「……な、なんだよ」
は何も答えず、指先に挟んだ名刺を、桂の目のへと迷いなく差しした。
受け取らざるを得ない無言の圧力がそこにあった。桂はぎこちなく震えるを伸ばし、片をつまみげた。
線が印字された文字のを滑る。
その瞬、桂の顔から血の気がすっと引いていくのが、目にもはっきりと分かった。
『成制御株式会社』
『取締役 管理本部 藤森 』
桂の唇が刻みに震え、半きのから乾いた音が漏れる。
「みつ……なり……?」
周囲の同級たちもざわつき始めた。
当然だ。つい数分まで、桂はこのテーブルでふんぞり返り、自げに演説をぶっていたのだから。
「俺がいま営業で追っかけてる案件、成制御っていう急成企業相でさ。あそこを取れば、俺の営業部昇はほぼ決まりなんだよ」
自分をきく見せるために並べてた虚勢の板。その決定権を握る当事者が、まさに目のにっていた。
「はい。その成制御です」
はく、事実だけを告げた。
桂の顔は、見ているこちらがになるほどの気へと変わっていく。呼吸が浅くなり、名刺を持つ指先が目に見えて震えていた。
は線をしも逸らさず、さらに言葉をねた。
「夫はこの会社を私と共に創業したであり、現の技術責任者です」
宴会の空気が完全に砕け散った。
桂が守り続けてきた架空のピラミッドが、音をてて瓦解した瞬だった。
見し、嘲笑し、あまつさえ酒を浴びせかけた相が、自分が必にすがりつこうとしていた顧客の技術トップだったのだ。
「ま、待ってくれ……藤森夫……」
先ほどまでの傲な態度は跡形もなく消えり、桂のからはれな懇願のような声が漏れた。
「あの、今の冗談で……昔馴染みだから、ちょっと悪ノリが過ぎたというか……!」
は眉つかさなかった。
「今のことを、本当に冗談だとお考えですか?」
桂は喉を詰まらせ、何も言えなくなった。
はそこで男を追及するのをやめ、ゆっくりと周囲を見渡した。
同じテーブルに座り、桂の暴挙を見て見ぬ振りをした同級たち。巻きに眺め、何事もなかったかのように振るおうとしていた者たち。その全員に、のまっすぐな線が向けられる。
「皆さんは、今のことをどう見ていましたか?」
誰も答えられない。
先ほどまで桂の自話に適当な相槌を打ち、私への当てこすりを笑ってやり過ごしていた連が、斉に線を逸らした。の絨毯を見つめる者、元のグラスをもなく回す者。
痛烈な沈黙が、そのにいた全員の共犯関係を炙りしていく。
耐えかねたようにをいたのは、今回の同窓会の幹事を務めていた真紀だった。
「あ、あの、奥さん……! 申し訳ありませんでした。でも、公平も悪気があってやったわけじゃないとうんです。ほら、みんなぶりの再会で、しお酒が入って羽目をしちゃっただけで……」
取り繕うような、卑屈な笑み。
を丸く収めたい、波をてたくないという保だけが透けて見える言葉だった。
と、何つ変わっていない。
はの顔を静かに見据え、透き通るような声で返した。
「の付きいがあれば、にお酒をかけてもいいんですか?」
の表が凍りついた。
いたが塞がらず、顔全体がみるみる赤く染まっていく。
「それは……」
「これがもし、見ずらずのに向けられた為なら、警察を呼ばれても文句は言えないはずです。『同窓会』という名をつければ、目のでわれた暴力がすべて無効になるとでもっていらっしゃるのですか?」
の放つ言葉は、な罵倒ではない。徹なまでの正論だった。
誰も反論できない。宴会の隅々にまで、その問いが突き刺さっていた。
桂は青ざめた顔で額に脂汗を浮かべ、必に自分の逃げを探そうと元をもごつかせた。
「し、仕事の話と、これは別だろう……!? プライベートのじゃないか……!」
都が悪くなると、今度は「公私の区別」というもっともらしい盾に隠れようとする。